坊っちゃん(夏目漱石)あらすじ 主人公の名前、言えますか? |5分でわかる名作 #04
この話の要点
- 「親譲りの無鉄砲」で始まる夏目漱石の小説で、四国の中学校に来た新しい先生が主人公です。
- 主人公は初日に狸・赤シャツ・うらなり・山嵐などとあだ名をつけ、表と裏のある先生たちと出会います。
- 読み手に残るのは「主人公の名前、言えますか?」という問いです。
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解説
動画の流れ
夏目漱石の『坊っちゃん』は、「親譲りの無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。」(第1章。小供=こども)という書き出しで知られる小説です。東京育ちの短気な若者が四国の中学校の先生になり、初めて会った先生たちにあだ名をつけて、ぶつかり合います。
この記事は結末まで扱います。あらすじと登場人物をたどったあと、本文の言葉を数えて、「主人公の名前」と「主人公を坊っちゃんと呼んだのはだれか」を確かめます。根拠にしたのは、青空文庫の『坊っちゃん』(図書カード No.752、新字新仮名)の本文です。
30秒で分かるあらすじ
東京で育った無鉄砲な若者は、親にかわいがられず、家で働く清だけに大事にされて育ちます。学校を出ると四国の中学校の数学の先生になり、着いた次の日、先生たちに、狸・赤シャツ・うらなり・山嵐・のだいこと、あだ名をつけます。やがて、うらなりの許嫁のマドンナに、教頭の赤シャツが近づき、町に残りたかったうらなりの、遠い学校への転任が決まります。主人公は、いったん疑った山嵐と仲直りし、二人で朝早く、杉並木で赤シャツと野だいこを懲らしめて、町を去ります。東京で清と暮らしますが、清は肺炎で亡くなります。
この作品について
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作者 | 夏目漱石(1867〜1916年。本名は夏目金之助) |
| 発表 | 1906(明治39)年4月、雑誌『ホトトギス』 |
| 長さ | 本文約8万8千字・全11章(青空文庫の本文で数えました) |
| 語り | 主人公が自分を「おれ」と呼んで語る |
| 舞台 | 東京と、名前の書かれない四国の町 |
漱石は1895(明治28)年4月から1年ほど、愛媛県の松山中学で英語を教えていました。『坊っちゃん』はこの時の様子がモデルになったといわれます。ただし、本文には「松山」という言葉は一度も出てきません(くわしくは下の「モデルとされる町と漱石」)。
登場人物

- 主人公(おれ): 新任の数学の先生。江戸っ子で、自分を「おれ」と呼びます。年は、釣りの帰りの舟で「二十三年四ヶ月」と言っています(第5章)。本文に名前は書かれていません。
- 清(きよ): 東京の家で働いていた年寄りの下女(住みこみで家の仕事をする女の人)。胡麻塩の髪。主人公をだれよりもかわいがり、「坊っちゃん」と呼びます。
- 山嵐(やまあらし)=堀田: 数学の主任で、会津の出。「逞しい毬栗坊主」(第2章)。声が大きく、生徒に人気があります。
- 赤シャツ: 教頭(文学士)。暑い日でもフランネルの赤いシャツを着て、「妙に女のような優しい声」(第2章)で話します。本当の名前は書かれていません。
- 野だいこ(野だ)=吉川: 画学(絵)の先生。芸人のような話し方で、いつも赤シャツについて回ります。
- うらなり=古賀: 英語の先生。顔色が悪く「蒼くふくれている」(第2章)、とてもおとなしい人です。
- マドンナ=遠山のお嬢さん: うらなりの許嫁(結婚の約束をした相手)。本文に、マドンナの言葉は一つも書かれていません。
- 狸(たぬき): 校長。本当の名前は書かれていません。
あだ名の意味も見ておきましょう。「うらなり」(末生り)は、つるの先のほうに遅れてなる、小さくて味の落ちる実のことで、顔色が悪く元気のない人をあざける言葉にもなります。主人公は子どものころ、清から「あの人はうらなりの唐茄子ばかり食べるから、蒼くふくれるんです」と教わっていました(第2章。唐茄子=かぼちゃ)。「のだいこ」(野太鼓)は、素人の太鼓持ち(宴会で客のきげんを取る人)のことです(どちらもデジタル大辞泉)。
章ごとのあらすじ
ここから先は、結末まで書いています。

本文の最初から最後までを1本の帯にすると、四国に着くまでの東京の場面は本文の8.5%、四国の町の場面が91.2%、東京へ帰ってから最後までは0.3%しかありません。
第1章 無鉄砲な子どもと、清
主人公は子どものころから無鉄砲で、父にはかわいがられず、母は兄ばかりひいきしました。大事にしてくれたのは、家で働く清だけで、「あなたは真っ直でよいご気性だ」とほめてくれます。両親が亡くなり、兄からもらった600円で物理学校に3年通って卒業すると、四国の中学校の数学の先生の話(月給40円)が来て、主人公は「行きましょう」とその場で返事をしました。

出発の日、駅で清は「もうお別れになるかも知れません。随分ご機嫌よう」と言いました。汽車が動いてから主人公が振り向くと、清はまだ小さく立っていました。

第2章 四国の町へ。先生たちにあだ名をつける
汽船から艀(はしけ。沖の船と岸を行き来する小舟)で四国の町に上がり、マッチ箱のような汽車で中学校へ行きますが、もう放課後で誰もいません。次の日、宿屋に茶代(宿へのお礼のお金)を5円はずんでから、学校で校長から辞令(役につけるという書きつけ)を受け取り、先生たちにあいさつします。その日のうちに清へ書いた手紙で、「校長は狸、教頭は赤シャツ、英語の教師はうらなり、数学は山嵐、画学はのだいこ。」とあだ名を知らせました(画学=絵の授業)。下宿は山嵐が世話してくれ、帰りに山嵐は氷水を一杯おごってくれます。
第3章 天麩羅先生と赤手拭
初めての授業では、生徒の「おくれんかな、もし」という土地の言葉にとまどい、下宿では主人が骨董(古い道具や絵)を売りつけに来ます。天麩羅そばを四杯食べた次の日、黒板には「天麩羅先生」と大きく書かれていました。団子を食べれば「団子二皿七銭」、温泉に下げていく西洋手拭が湯で赤く染まれば「赤手拭」、湯船で泳げば「湯の中で泳ぐべからず」と、生徒たちは主人公のすることを何でも見ています。
第4章 宿直の夜のバッタ
学校には宿直(学校に泊まる当番)がありますが、狸と赤シャツはしなくてよい決まりです。初めての宿直の日、主人公は温泉へ出かけ、帰り道で狸と山嵐に会います。夜、布団からバッタが五六十も飛び出し、寄宿生(学校の寮に住む生徒)を問いただすと「そりゃ、イナゴぞな、もし」と言い返されます。

眠れない夜、主人公は遠く離れた清のことを思いますが、夜中には二階で足踏みと大声が起き、廊下で夜明けを待つことになります。
第5章 釣りの舟で
赤シャツに誘われ、野だといっしょに沖へ釣りに出ます。舟の上で二人は「堀田が」「煽動して」などと内緒話をし、帰りの舟では、赤シャツが名前を出さずに「親切に下宿の世話なんかしてくれても、めったに油断の出来ないのがありますから」とほのめかします。下宿を世話してくれたのは、山嵐でした。
第6章 一銭五厘と会議
山嵐をあやしく思った主人公は、前におごられた氷水の代、一銭五厘(1.5銭)を返し、言い合いになります。午後の、寄宿生の処分を決める会議では、赤シャツたちが寛大な処分を求める中、山嵐だけが、寄宿生が「新来の教師某氏を軽侮して」したことだとして、厳しい処分を求めました(某=ぼう。名前をわざと示さない時に使う言葉。軽侮=人をばかにすること)。最後に赤シャツが先生の「精神的娯楽」を説くと、主人公は「マドンナに逢うのも精神的娯楽ですか」と聞き返しました。
第7章 マドンナの話と、清の手紙
主人公はその夜のうちに下宿を出て、うらなり(古賀)の紹介で、萩野という老夫婦の家に移ります。下宿のおばあさんの話では、うらなりの許嫁(結婚の約束をした相手)のマドンナ(遠山のお嬢さん)を、赤シャツが「手馴付けておしまいた」、そして、うらなりのために赤シャツへ意見しに行ったのが山嵐だ、というのです。数日後、清から長い手紙が届きます。その晩、野芹川の土手で、主人公はマドンナを連れて歩く赤シャツに出くわしました。
第8章 ほこりをかぶる一銭五厘
山嵐の机に返した一銭五厘は「ほこりだらけになって乗っている」まま、二人は口をききません。一方で主人公は、赤シャツを「表と裏とは違った男だ」と思いはじめます。赤シャツは、うらなりが延岡へ転任し、代わりの先生が少し安い月給で来るので、その分で主人公の月給を上げられそうだと持ちかけます。けれど、うらなりは「元のままでもええから、ここに居りたい」と頼んでいたと下宿のおばあさんから聞いた主人公は、その夜、増給を断りに行きました。
第9章 仲直りと送別会
うらなりの送別会の日の朝、山嵐は前の下宿の主人の話がうそだったと謝ります。主人公はだまって山嵐の机の一銭五厘を自分のがま口に入れ、二人は仲直りします。送別会では、狸と赤シャツが、うらなりは自分から転任を望んだように話し、山嵐は演説で赤シャツを当てこすります。裸踊りの野だがうらなりの帰り道をふさぐと、主人公は野だの頭を拳骨でなぐりました。
第10章 祝勝会の大げんか
祝勝会(戦争に勝ったお祝いの会)の日、主人公は山嵐から、赤シャツが温泉の町の角屋という宿で芸者と会うらしいと聞き、向かいの宿から見張る計画を相談します。そのあと、踊りを見に行った会場で、中学校と師範学校(先生を育てる学校)の生徒の大げんかが起き、止めに入った二人は巻きこまれて、「おれと山嵐だけ」が捕まりました。何の戦争の祝勝会なのかは、本文には書かれていません。
第11章 朝の杉並木
翌朝の新聞には、「中学の教師堀田某と、近頃東京から赴任した生意気なる某とが」生徒をそそのかした、と書かれます。山嵐は校長から辞めるように言われて辞表を出しますが、町を去ったふりをして、角屋の向かいの宿の二階にひそみ、主人公と見張りを続けました。
張り込みの八日目の夜、赤シャツと野だが角屋へ入り、野だは「あのべらんめえと来たら、勇み肌の坊っちゃんだから愛嬌がありますよ」と笑います(べらんめえ=江戸っ子のこと。ここではからかって言っています)。主人公と山嵐は、朝の五時まで待って、宿から出てきた赤シャツと野だのあとを尾け、杉並木で追いつきます。主人公は袂(着物のそでの袋になった所)に入れていた八つの玉子を野だの顔に投げつけ、山嵐は赤シャツをなぐりました。主人公も辞表を郵便で出し、その夜、山嵐と船で町を去ります。

結末:清の墓は、なぜ小日向にあるのか
東京に着くと、主人公はかばんを提げたまま「清や帰ったよ」と清のところへ飛びこみます。清は「あら坊っちゃん、よくまあ、早く帰って来て下さった」と涙を落としました。主人公は街鉄(路面電車の会社)の技手(技術の係)になって、清と暮らします。

第1章で、主人公がいつか立派な玄関のある家を持つと信じていた清は、「玄関付きの家でなくっても至極満足の様子」でした。けれど清は二月に肺炎で亡くなります。死ぬ前の日、清は「坊っちゃん後生だから清が死んだら、坊っちゃんのお寺へ埋めて下さい。お墓のなかで坊っちゃんの来るのを楽しみに待っております」と頼みました(後生だから=お願いだから)。
物語は、「だから清の墓は小日向の養源寺にある。」という一文で終わります(小日向=こびなた、養源寺=ようげんじ)。

主人公の名前は、本文に書かれているか
答えは、本文に一度も書かれていない、です。
確かめ方を書いておきます。青空文庫の本文から、「〜君」「〜さん」「〜先生」「〜氏」「〜某」「〜様」のつく言葉を全部拾い出しました。名字が出てくるのは古賀・堀田・吉川・川村・遠山・萩野などで、どれも主人公ではありません。そのうえで、本文を最初から最後まで読んで確かめました。
主人公は、自分のことを「おれ」と呼びます。まわりの人たちは、主人公をこう呼びました。
- 「天麩羅先生」: 生徒が黒板に書いた(第3章)
- 「赤手拭」: 生徒(第3章)
- 「新来の教師某氏」: 山嵐が会議の席で、名前を出さずに(第6章)
- 「生意気なる某」: 新聞(第11章)
- 「べらんめえ」「勇み肌の坊っちゃん」: 野だ(第11章。勇み肌=威勢がよく、男気のある気風)
- 「坊っちゃん」: 清(第1章・第7章の手紙・第11章で、合わせて11回)
新聞が名前の代わりに書いた「某」を読んで、主人公はこう怒ります。
「天下に某と云う名前の人があるか。考えてみろ。これでもれっきとした姓もあり名もあるんだ。」(第11章)
名字も名前もある、と言いながら、本文はそれを最後まで書きません。名前がのっていたはずの辞令も、第2章で受け取る場面に、先のことがこう書かれています。
「この辞令は東京へ帰るとき丸めて海の中へ抛り込んでしまった。」(第2章。抛り込んで=ほうりこんで)
分かるのは年だけです。釣りの帰りの舟で「二十三年四ヶ月ですから」と言い(第5章)、下宿のおばあさんには「まだ二十四ですぜ」と言っています(第7章)。物語の町の名前も書かれていません。青空文庫の本文で数えると、「松山」という言葉は0回、「四国」は2回だけでした。
「坊っちゃん」は16回。11回は清の言葉

題名の「坊っちゃん」は、主人公の名前ではなく、呼び名です。「坊っちゃん」という字の並びは、本文に16回出てきます(青空文庫の本文〈新字新仮名〉で数えました。題名は数えていません。ほかの版では表記が違うことがあります)。
| だれの言葉 | 回数 | 章 | 本文の例 |
|---|---|---|---|
| 清 | 11 | 第1章1・第7章6(手紙)・第11章4 | 「あら坊っちゃん、よくまあ」 |
| おれ(主人公) | 2 | 第11章 | 「べらんめえの坊っちゃんた何だ」 |
| 地の文(語りの文) | 2 | 第1章・第5章 | 「坊っちゃんだの小僧だのと」 |
| 野だ | 1 | 第11章 | 「勇み肌の坊っちゃん」 |
主人公の2回は、野だの言葉をくり返して怒る所と、野だに言い返す所です。名前の書かれない主人公を、いちばん多く「坊っちゃん」と呼んだのは、清でした。
辞書で「坊ちゃん」を引くと、①他人の男の子を敬っていう語、②大事に育てられて世事に疎い男性、という2つの意味が出てきます(デジタル大辞泉。精選版日本国語大辞典は、②の意味について「多くはあざけりの意」としています)。野だの「勇み肌の坊っちゃん」や、第5章の地の文「たまに正直な純粋な人を見ると、坊っちゃんだの小僧だのと難癖をつけて軽蔑する」は、②の、あざける使い方です。清の11回は、①の使い方です。
清は、四国にいない間も出てくる

清は、主人公が四国にいる間、一度も四国に来ません。それでも清の名前は、本文に90回出てきます(「日清」「清和」「清書」は除いて数えました)。四国の場面(第2章の頭から「清や帰ったよ」の前まで)だけでも46回です。名前が一度も出てこないのは、第3章と第9章だけでした。
清がそばにいない四国で、主人公は清のありがたさに気づきます。宿直の夜(第4章)、主人公はこう思います。
「今まではあんなに世話になって別段難有いとも思わなかったが、こうして、一人で遠国へ来てみると、始めてあの親切がわかる」(第4章。難有い=ありがたい。遠国=遠い土地)
下宿を移った第7章でも、「こうして田舎へ来てみると清はやっぱり善人だ」と書かれています。
四国にいたのは、ひと月あまり
物語の9割あまりは四国の町の場面ですが、主人公が四国にいたのは、どのくらいの間でしょうか。本文の手がかりを並べます。
- 「まだ生徒に接せられてから二十日に満たぬ頃」: 山嵐が会議で、宿直の夜のことを(第6章)
- 「ここへ来てからまだ一ヶ月立つか、立たないうちに」: マドンナの話を聞いたあと(第7章)
- 「一ヶ月立たないうちにもう帰りたくなった」: 増給の話を聞いた日(第8章)
- 「来てから一月立つか立たないのに辞職したと云うと」: 校長が、辞めると言う主人公に(第11章)
- 「八日目には七時頃から下宿を出て」: 張り込みの八日目(第11章)
校長が「一月立つか立たない」と言ったあとも張り込みが八日目まで続き、主人公はそのあと町を去ります。本文の言葉から、主人公が四国にいたのは、ひと月あまりと読めます。
お金で見る『坊っちゃん』
本文に出てくる金額は、今のお金には直しません。物価の何を基準にするかで、答えが大きく変わるからです。比べるのは、同じ物語の中の金額どうしだけにします(1銭は1円の100分の1、1厘は1銭の10分の1です。デジタル大辞泉)。
| 何のお金 | 金額 | 章 |
|---|---|---|
| 兄がくれたお金 | 六百円 | 第1章 |
| 兄から清へ(主人公が渡す) | 五十円 | 第1章 |
| 四国の中学校の月給 | 四十円 | 第1章 |
| 宿屋への茶代 | 五円 | 第2章 |
| 山嵐におごられた氷水 | 一銭五厘(1.5銭) | 第6章 |
| 清が昔貸してくれたお金(返していない) | 三円 | 第6章 |
| 清が手紙で送ってきたお金 | 十円 | 第7章 |
| うらなりが延岡で増える月給 | 五円 | 第8章 |
| 張り込み八日分の宿代(山嵐が払う) | 五円六十銭 | 第11章 |
| 東京での月給(街鉄の技手) | 二十五円 | 第11章 |
| 東京での家賃 | 六円 | 第11章 |
月給は、四国の中学校で40円、東京の街鉄で25円です。東京に戻った主人公の月給は、四国の時より少なくなりました。
もう一つ、一銭五厘と三円の違いがあります。山嵐におごられた一銭五厘は、山嵐を疑ったとたんに返しました。ところが、清から借りた三円は返していません。
「その三円は五年経った今日までまだ返さない。返せないんじゃない。返さないんだ。」(第6章)
理由は、こう書かれています。
「返さないのは清を踏みつけるのじゃない、清をおれの片破れと思うからだ。」(第6章。片破れ=かたわれ。一つのものが分かれた、もう片方)
モデルとされる町と漱石
漱石は東京帝国大学を卒業したあと、1895(明治28)年4月に、松山中学(愛媛県尋常中学校。いまの愛媛県立松山東高等学校の前身)に英語の先生として赴任しました。そして1896(明治29)年4月に、熊本の第五高等学校の講師になっています(熊本市の資料「熊本の漱石」の年譜)。松山にいたのは1年ほどです。
『坊っちゃん』は、漱石が松山に赴任していた時の様子がモデルになったといわれています(松山市『広報まつやま』2017年4月1日号)。ただし、本文には「松山」という名前は一度も出てきません。また、主人公は数学の先生ですが、漱石は英語の先生でした。物語の町は、最後まで名前の書かれない、四国のある町です。
読み解きの問い
本文に答えが書かれていない問いです。本文の手がかりを並べるので、読みながら考えてみてください。
本文はなぜ、主人公の名前を書かないのか
主人公は「れっきとした姓もあり名もある」と怒りますが、本文は名前を書かず、名前がのっていた辞令は海へ投げこまれます。読む人が知っているのは、天麩羅先生・赤手拭・某・坊っちゃんといった、まわりの人がつけた呼び名だけです。主人公があだ名をつける側として始まり、自分も呼び名だけで呼ばれ続けることに、どんな意味があるでしょうか。
一銭五厘はすぐ返し、清の三円は返さないのはなぜか
主人公自身は、三円を返さないのは清を「おれの片破れ」と思うからだ、と書いています(第6章)。では、疑ったとたんに一銭五厘を返した山嵐とは、何が違うのでしょうか。仲直りした第9章で、主人公がその一銭五厘をだまって自分のがま口に入れたことも、手がかりになります。
題名の「坊っちゃん」は、だれの声で読むか
同じ「坊っちゃん」でも、野だが言えば世間知らずをあざける言葉になり、清が言えば大事な人を呼ぶ言葉になる、というのが、この記事の一つの読み方です。本文の16回のうち11回は清の言葉です。題名を、清の声で読むか、野だの声で読むかで、聞こえ方が変わるかもしれません。
よくある問い
『坊っちゃん』の主人公の名前は何ですか?
本文に一度も書かれていません。主人公は自分を「おれ」と呼び、まわりの人からは「天麩羅先生」「赤手拭」「某」「坊っちゃん」などの呼び名で呼ばれます。新聞に「生意気なる某」と書かれた時、主人公は「これでもれっきとした姓もあり名もあるんだ」と怒りますが、その名前は最後まで書かれません。
題名の「坊っちゃん」は、だれのことですか?
主人公の呼び名です。本文に「坊っちゃん」は16回出てきて、そのうち11回は、主人公をかわいがった清の言葉です(第1章・第7章の手紙・第11章)。ほかは、野だが1回、主人公が2回(野だの言葉をくり返す所と言い返す所)、地の文が2回です。
舞台はどこですか? 松山ですか?
本文には町の名前は書かれていません。「松山」という言葉は0回、「四国」は2回だけです。漱石が1895年4月から1年ほど英語を教えた松山の中学校での様子がモデルになったといわれていますが、物語の中では、名前の書かれない四国の町です。
赤シャツや狸の本当の名前は書かれていますか?
書かれていません。本当の名前が書かれていないのは、主人公・赤シャツ・狸の3人です。うらなりは古賀、山嵐は堀田、野だいこは吉川、マドンナは遠山のお嬢さんと、本文に名字が出てきます。
マドンナは物語の中で話しますか?
マドンナの言葉は、本文に一つも書かれていません。駅で見かけた時も、「遠いから何を云ってるのか分らない」と書かれるだけです。
清は最後にどうなりますか?
主人公が東京に帰ると、二人はいっしょに暮らします。けれど清は二月に肺炎で亡くなり、死ぬ前の日に「坊っちゃんのお寺へ埋めて下さい」と頼みます。物語は「だから清の墓は小日向の養源寺にある。」という一文で終わります。
何の戦争の祝勝会ですか?
本文には書かれていません。第3章に「日露戦争」という言葉が、第10章にロシアの将軍「クロパトキン」の名前が出てきますが、どちらも、ほかの事のたとえとして出てくるだけです。
主人公は四国にどのくらいいましたか?
本文の言葉から、ひと月あまりと読めます。校長が辞めると言う主人公に「来てから一月立つか立たないのに」と言い、そのあと張り込みが八日目まで続いてから、主人公は町を去ります。
原文への道案内
- 坊っちゃん(図書カード No.752)— 青空文庫:新字新仮名の本文が無料で読めます。全11章なので、1章ずつ区切って読めます。
- 本文(XHTML版)— 青空文庫:まず第1章と最後の第11章を開いてみるのがおすすめです。清が「坊っちゃん」と呼ぶ所は、第1章(出発の三日前)、第7章(清の手紙)、第11章(東京へ帰ってから最後まで)にあります。
- 読むときのヒント: 「云う」は「言う」、「難有い」は「ありがたい」と読みかえると、ぐっと読みやすくなります。
- 英語で読むなら、Penguin Classics の J. Cohn 訳(題名は Botchan)と、Project Gutenberg で無料で読める Yasotaro Mori 訳(Botchan (Master Darling))があります。
ショート
出典
動画とこのページで使った事実・数字の出どころです。
- 夏目漱石『坊っちゃん』青空文庫 図書カード No.752(新字新仮名。底本はちくま日本文学全集『夏目漱石』(筑摩書房、1992年)。作者の生没年と本名も)aozora.gr.jp/cards/000148/card752.html
- 『坊っちゃん』本文(青空文庫)(引用と、字数・回数・位置を数えた本文)aozora.gr.jp/cards/000148/files/752_14964.html
- 松山市『広報まつやま』2017年4月1日号(正岡子規・夏目漱石生誕150年記念特集号。『坊っちゃん』のモデルについて)city.matsuyama.ehime.jp/shisei/machizukuri/kotoba/shikisoseki15…
- 熊本市「熊本の漱石」(漱石の年譜(松山中学への赴任と、熊本の第五高等学校))city.kumamoto.jp/nishi/kiji0038055/5_8055_52912_up_0K8M5…
- 東京都都市整備局「馬車鉄道から路面電車へ」(街鉄(東京市街鉄道)について)toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/keikaku_chousa_singikai/pdf/tokyotoshiz…
- コトバンク「坊ちゃん」(デジタル大辞泉・精選版日本国語大辞典。2つの意味)kotobank.jp/word/坊ちゃん-3218754
- コトバンク「某」(・)kotobank.jp/word/某-486627
- 「辞令」(・)kotobank.jp/word/辞令-536073
- 「宿直」(・)kotobank.jp/word/宿直-528259
- 「許嫁」(・)kotobank.jp/word/許嫁-29780
- 「師範学校」(言葉の意味)kotobank.jp/word/師範学校-74790
- コトバンク「勇み肌」(・)kotobank.jp/word/勇み肌-431839
- 「べらんめえ」(・)kotobank.jp/word/べらんめえ-625648
- 「後生」(・)kotobank.jp/word/後生-495980
- 「銭」(・)kotobank.jp/word/銭-87495
- 「厘」(言葉の意味)kotobank.jp/word/厘-150228
- コトバンク「末生り」(・)kotobank.jp/word/末生り-441874
- 「野太鼓」(・)kotobank.jp/word/野太鼓-596939
- 「幇間」(・)kotobank.jp/word/幇間-168200
- 「街鉄」(・)kotobank.jp/word/街鉄-666148
- 「技手」(あだ名と言葉の意味)kotobank.jp/word/技手-473634
- Project Gutenberg で無料で読める Yasotaro Mori 訳(Botchan (Master Darling))gutenberg.org/ebooks/8868
