目で見た形は、どこまで信用できる? |錯覚ラボ #06
種明かし
- 欠けた丸の間に三角形が見えても、線も塗りも描いておらず、内側の何もない所は外の紙と同じ色です。
- 欠けた丸を、手前の三角形に隠れた円盤と受け取り、見る仕組みが輪郭と面を補うと考えられています。
- 丸の向きを変えて切り口のそろいを崩すと三角形は見えにくくなり、実験台で見え始める角度を探せます。
ほかの言い方主観的輪郭カニッツァの三角形エーレンシュタイン図形ネオン色拡散描いていない三角形が見える錯視 なぜ
動画
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解説
動画の流れ
30秒で分かる種明かし
欠けた丸を3つ置くだけで、その間に三角形が見える人が多くいます。けれども、その三角形は描いていません。三角形の線も、塗りもありません。三角形の内側の何もない所の色を読むと、外側の紙と同じ色(#F7F5F0)です。
描いていない所に輪郭が見えるこの現象を「主観的輪郭」と呼びます。形を補う働きがあることは、たくさんの実験で確かめられています。ただ、なぜ明るく見えたり色が広がって見えたりするのか、その細かい仕組みはまだ分かっていません。
このページでは、動画と同じ図と座標を使って、三角形(形)、明るい丸(明るさ)、色の広がり(色)の3つを順に確かめます。見え方には個人差があり、見えなくても異常ではありません。
欠けた丸の間に、三角形は見える?
まず、何も考えずに下の図を見てください。欠けた丸が3つあるだけの図です。

真ん中に、白っぽい三角形が浮かんで見えたでしょうか。三角形の辺が、丸と丸の間までつながって見える人もいます。三角形の内側が、周りの紙より少し明るく見えると言う人もいます。一方で、輪郭だけが見えて明るさは感じない人や、何も見えない人もいます。どの見え方も、そのままで大丈夫です。
図で確かめる:三角形は描いていない
図の作り方(実際の座標)
この図は、1000 × 1000 の「舞台」の上に、座標を決めて描いています。単位の u は図の中の単位で、画面の画素ではありません。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 欠けた丸の中心(三角形の頂点にあたる所) | (500, 219)・(280, 600)・(720, 600) |
| 欠けた丸の半径 | 90 u |
| 3つの辺の長さ | 439.96 u・440 u・439.96 u |
| 切り口の角度 | それぞれの頂点の内角と同じ(59.997°〜60.007°) |
| 1辺のうち、切り口として実際にある部分 | 両端の 90 u ずつ |
| 1辺のうち、何も描いていない部分 | 約 260 u |
切り口の向きは、隣の頂点へ向かう向きにそろえてあります。だから、2つの切り口は、仮の三角形の辺の延長の上にきっちり乗っています(計算上のずれは0)。
切り口と切り口の間には、線がない
確かめるために、青い破線で本物の三角形を重ねると、下の図のようになります。青い破線は、後から足した線です。元の図に描いてあるのは、各辺の両端にある切り口(90 u ずつ)だけです。その間の約 260 u には、線も、境目もありません。

何もない所の色は、紙と同じ
画面の絵は、小さな色の点(画素)が並んでできています。そこで、丸・線・境目・方眼を避けた点を選び、その点の色を読みました。目印の青い輪は、読む点を覆わないように少し離して描いています。
- 三角形の内側の何もない所(舞台の (500, 473)。三角形の重心): #F7F5F0(紙と同じ色)
- 三角形の外側の何もない所(舞台の (820, 473)): #F7F5F0(紙と同じ色)
上の図の値は、その図そのものを書き出した画像から読んだ値です。動画の書き出しでも、同じ2つの点はどちらも紙の色でした。言えるのは、「選んだ何もない点どうしの色は同じ」ということです。丸の上の点は墨の色(#20232A)で、丸のふちには墨と紙が混ざった色の点が並びます。どの点でも紙の色、というわけではありません。
丸の向きを変えると
欠けた丸を、その場で外向きに回したのが次の図です。丸の形も大きさも、切り口の角度も変えていません。変えたのは向きだけです。

多くの人は、こちらでは三角形が見えなくなります。研究でも、切り口を内向きにそろえた図と、外向きに回した図を比べることが、主観的輪郭を確かめる基本の比べ方として使われています。
名前:カニッツァの三角形と主観的輪郭
この図は「カニッツァの三角形」と呼ばれる目の錯覚(錯視)です。イタリアの心理学者ガエターノ・カニッツァが1955年に発表して、広く知られるようになりました。
描いていない所に輪郭や面が見える現象全体は「主観的輪郭(illusory contours)」と呼ばれます。最初の報告は、ドイツの心理学者フリードリヒ・シューマンの1900年の論文とされています。カニッツァの図では、見えている三角形の輪郭を補う働き(見える補完)と、欠けた丸が「三角形の後ろに隠れた丸」として補われる働き(見えない部分の補完)が、同時に起きると説明されます。
明るさでも起きる:エーレンシュタイン図形
次は、放射状に並んだ12本の線です。線の内側の端は、すべて中心から 90 u の円の上にそろえています(線の長さは 170 u、太さは 6 u)。

真ん中に、周りより少し明るい丸が見える人がいます。これは「エーレンシュタイン図形」と呼ばれ、ヴァルター・エーレンシュタインが1941年に報告しました(のちに1954年の本でも扱っています)。もとは、ヘルマン格子という別の錯視の変形として示されたものです。
確かめると、線や境目のない真ん中の点も、外側の点も、紙と同じ色です。青い破線は、線の内側の端がそろっている円です。

線を1本ずつ内や外へずらして、内側の端のそろいを崩すと、明るい丸は弱まったり、消えたりします(下の図。線の長さは変えていません)。

もう一つの確かめ方は、見えている丸の縁に、本物の細い輪を描くことです。輪を描くと、明るさの見え方はかえって弱まると報告されています。動画とページの実験台では、内側の端がそろう円の上に、太さ 3 u の墨の輪を描いて試せます。
色でも起きる:ネオン色拡散
最後は、墨の格子です。格子の間隔は 76 u、線の太さは 6 u です。中央の半径 190 u の円の中にある線の部分だけを、マゼンタ(#D81B74)に変えました。線の形・太さ・位置は変えていません。色の部分と墨の部分の境目は、すべてこの円の上にあり、すき間はありません。

線の間の何も塗っていない紙の所にも、薄い色が膜のように広がって見える人がいます。これが「ネオン色拡散」です。1971年にヴァリンがイタリア語の論文で記録し、1975年にファン・タイルが「ネオンのような色の広がり」として報告しました。
確かめると、円の内側で線の上ではない点も、円の外側の点も、紙と同じ色です。色があるのは、線の上だけです。青い破線は、色の線が終わる円です。色が広がって見える範囲は、おおよそこの円の内側です。

色の部分を、線と直角の向きへずらしてみます。縦の線の色の部分は横へ、横の線の色の部分は縦へ動かします。下の図は 14 u ずらした図です。

色の部分が墨の部分と一直線につながっていると、色の広がりははっきり見えやすく、ずらすほど弱まります。ずらす量と人によっては、消えることもあります。ただし、一直線であることが必ず要る条件なのか、何 u ずらせば消えるのかは、ここでは決めつけません。色によって広がり方が違うという報告もありますが、この回では1色に絞りました。
なぜそう見えるのか
ここからは、確かめられたことと、研究の仮説を分けて書きます。
確かめられたこと
- 描いていない所に輪郭が見えること自体は、そろいを崩した図(丸を外向きに回した図など)と比べる実験で、くり返し確かめられています。
- サルの脳の視覚野 V2 には、実在しない輪郭の位置にも反応する神経細胞があることが報告されています(von der Heydt、Peterhans、Baumgartner、1984年)。
- 一方で、より早い段階の V1 でも反応が見られたという報告があり(Grosof、Shapley、Hawken、1993年)、脳のどの段階で作られるのかは、一つに決まっていません。
よく使われる説明(仮説)
研究でよく使われるのは、「手前の物が、後ろの物を隠している」という場面の解釈です。欠けた丸を、手前にある三角形の板に一部を隠された丸い円盤だと受け取ると、見えない三角形の輪郭と面も、その場面に合うように補われる、という考え方です。欠けた丸が「三角形の後ろに隠れた丸」に見えることとよく合います。
合わない証拠と、まだ分かっていないこと
三角形の内側が明るく見える理由については、周りとの明るさの差が強調される働き(明るさの対比)で説明しようとする説があります。しかし、それでは説明しきれないという反論もあり、輪郭を補う働きと明るさを補う働きが同じ仕組みなのかは、意見が分かれています。
ネオン色拡散についても、透明な色の膜が重なった場面として解釈する説と、色の信号が境目を越えて広がる、と考える説があります。
まとめると、形を補う働きがあることまでは確かです。明るさや色が広がる細かい仕組みは、まだ分かっていません。
条件を変えるとどうなるか
- 辺のうち、実際に切り口がある部分の割合(実在の辺の割合、support ratio)が下がるほど、輪郭は弱く見えることが知られています。この回の三角形では、この割合が 2 × 90 ÷ 440 ≈ 0.41 です。
- 欠けた丸を小さくして半径 60 u にすると、この割合は約 0.27 になります。実験台では、この「小さい丸」の条件でも測れます。
- 丸を少しずつ回していくと、どこかで三角形が見え始めたり消えたりします。その角度は人や画面によって違います。
よくある問い
見えないのは異常ですか
異常ではありません。主観的輪郭の見え方には個人差があり、同じ人でも、図の大きさや見る距離などで変わることがあります。この回の実験台も、見え方を合わせた記録で、視力や能力を調べるものではありません。
内側は本当に白くないのですか
白くはありません。三角形の内側の何もない点と、外側の何もない点を、図そのものの画像から読むと、どちらも紙と同じ #F7F5F0(赤247・緑245・青240)でした。白っぽく、明るく見えるのは見え方の側で起きていることです。
色が広がるのは画面のにじみですか
にじみではありません。線の上ではない、指定した点の色を読むと、円の内側でも外側でも紙と同じ色でした。色の点があるのは線の上(と、線のふちの混ざった点)だけです。また、色の部分を線と直角の向きへずらすと、図の色の量は同じなのに、色の広がりの見え方は弱まります。画面のにじみだけで起きているなら、ずらしても同じように見えるはずです。
三角形は正三角形ですか
座標を整数にしたため、辺の長さに 0.05 u 未満の差があります。そのため、この回では「三角形」とだけ呼んでいます。見え方には影響しない大きさの差です。
実験台で試す
動画の説明欄から、「錯覚ラボ #06 形の実験台」を開けます。
- 実験1(カニッツァの三角形): 丸の向きと大きさを変えたり、丸を紙と同じ色の覆いで隠したり、点の色を調べたりできます。丸を回して、三角形がちょうど見え始める角度へ合わせる測定(6回)もできます。見つからない時は「見えなかった」「境目を決められない」と答えて、そのまま進めます。
- 実験2(エーレンシュタイン図形): 線の本数、端のそろいを崩す量、細い墨の輪、青い破線の円を切り替えられます。
- 実験3(ネオン色拡散): 色の部分をずらす量と、色を変える円の大きさを変えられます。
見え方には個人差があります。測定は診断ではなく、その条件で三角形が見え始めた角度の記録です。記録はその端末の中だけに残り、外へ送られません。
出典
動画とこのページで使った事実・数字の出どころです。
参考にした文献
- Schumann, F. (1900). Beiträge zur Analyse der Gesichtswahrnehmungen. Erste Abhandlung. Zeitschrift für Psychologie und Physiologie der Sinnesorgane, 23, 1–32.
- Kanizsa, G. (1955). Margini quasi-percettivi in campi con stimolazione omogenea. Rivista di Psicologia, 49, 7–30.
- Ehrenstein, W. (1941). Über Abwandlungen der L. Hermannschen Helligkeitserscheinung. Zeitschrift für Psychologie, 150, 83–91.
- Varin, D. (1971). イタリア語の論文。ファン・タイルより前のネオン色拡散の報告として、後の研究で引用されています。
- van Tuijl, H. F. J. M. (1975). A new visual illusion: neonlike color spreading and complementary color induction between subjective contours. Acta Psychologica, 39, 441–445.
- 図の座標と計算: タメラボ(このページの図は、動画と同じ設計データと描画のコードから書き出しています)
リンク
- Dresp-Langley, B. (2009). The Ehrenstein illusion. Scholarpedia, 4(10), 5364.hal.science/hal-01054030
- Pinna, B. & Grossberg, S. (2005). The watercolor illusion and neon color spreading: a unified analysis of new cases and neural mechanisms. Journal of the Optical Society of America A, 22(10), 2207–2221.doi.org/10.1364/JOSAA.22.002207
- von der Heydt, R., Peterhans, E. & Baumgartner, G. (1984). Illusory contours and cortical neuron responses. Science, 224, 1260–1262.doi.org/10.1126/science.6539501
- Grosof, D. H., Shapley, R. M. & Hawken, M. J. (1993). Macaque V1 neurons can signal ‘illusory’ contours. Nature, 365, 550–552.nature.com/articles/365550a0
- Yankelovich, A. & Spitzer, H. (2019). Predicting Illusory Contours Without Extracting Special Image Features. Frontiers in Computational Neuroscience, 12, 106.pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6345704
- Illusory contour(Wikipedia).en.wikipedia.org/wiki/Illusory_contour
- Neon color spreading(Wikipedia).en.wikipedia.org/wiki/Neon_color_spreading
声・音・絵
- 音楽(OpenTracks):「さみしいおばけと東京の月」しゃろう/「日曜の午後」KK(OpenTracksの利用規約に従って使用)。
- 効果音:Kenney「Interface Sounds」(click_001、tick_002、confirmation_001、select_001/CC0)https://kenney.nl/assets/interface-sounds 。回す動きの「スーッ」と空気の音はプログラムで合成。
