目で見た長さは、どこまで信用できる? |錯覚ラボ #01
種明かし
- 同じ長さの線が、ミュラー=リヤー・垂直水平・ポンゾの3つの錯視で違う長さに見えます。
- 線は数値でぴったり同じ長さに描いても、縦か横か・奥行きの手がかりなどで見え方が変わります。
- 青い定規を当ててこわすと、本当の長さを自分の目で確かめられます。
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解説
動画の流れ
上と下、長いのはどちらでしょう。
錯覚ラボは、錯覚を見て、こわして、自分の目で確かめるシリーズです。第 1 回は「長さ」。
同じ長さの線が、端についた形や、線のつき方、まわりの奥行きによって違って見えることがあります。ミュラー=リヤー錯視・垂直水平錯視・ポンゾ錯視を、自分の目と青い補助線で確かめてみましょう。実際の寸法と、研究が説明できている範囲を分けてたどります。
ミュラー=リヤー錯視:羽根だけで長さが変わる?
まずは、上下の横線を見比べてください。比べるのは斜めの線まで含めた図全体の幅ではなく、両端の頂点を結ぶ横線です。ここでは横線を「軸」、端についた斜めの線を「羽根」と呼びます。

上の軸のほうが長く見えませんか。同じに見えた人も、その見え方を覚えておいてください。
青い補助線で確かめられること
軸は上も下も 480 px、羽根はそれぞれ144 pxです。青い破線をたどると、上下の軸の端がそろっています。羽根の向きを入れ替えても、軸の端点は変わりません。

記事の図は、本編と同じ座標と描画コードから書き出しています。「px」は元の1920×1080の画像での値です。ページ上では図全体が同じ倍率で縮むため、表示中の画面で測った画素数とは異なります。長さは、線の中心を通る線の端点どうしで比べています。
この現象は、F. C. Müller-Lyerが1889年に報告したミュラー=リヤー錯視です。発表年と原典の書誌は、Dewar(1967)の参考文献にも載っています。
なぜそう見える? 立体の角と、端の位置の説
Gregory(1963)などで論じられた見方の一つは、羽根つきの形を、部屋のすみや建物の角のような立体の角として読むという説です。平面に描いた線でも、奥行きを読む働きが長さの判断に関わる、と考えます。
もう一つは、軸の端の位置が、羽根の先のほうへ引っぱられて見えるという説です。端の一点だけでなく、近くの形をまとめた位置を手がかりにしている、という考え方です。PresseyとMartin(1990)は、羽根の角度や長さによって位置のずれも変わることを調べました。ValerjevとDujmović(2024)も、角の頂点がずれて見える現象を測り、この種の説明と合わせて議論しています。
ただし、どちらも、これだけで決着した説明ではありません。HoweとPurves(2005)が紹介するように、羽根を四角や点に置き換えても、軸を消しても、同じ向きの錯覚が起きます。分かりやすい立体の角を描かなくても起きることは、「部屋の角だから」で説明を終えられない理由です。また、目を動かさなくても錯覚が残るため、目の動きだけで説明する昔の説にも難点があります。
形を変えると見え方が変わることと、その仕組みを説明できたことは別です。どの説がどこまで正しいのかは、まだ分かっていません。
羽根の角度・長さ・色を変えると?
この図では、上の羽根を軸と直角にし、下の羽根も直角にすると、上下がまったく同じ形になります。下の図に重ねた青い写しもぴったり一致します。ここでなくなるのは、上下の羽根の違いによる差です。

Dewar(1967)では、羽根の角が鋭いほど、また羽根が長いほど、錯覚が大きくなる傾向が報告されています。ただし、長くする効果には頭打ちもあります。論文でいう角度は「2本の羽根のあいだの角度」なので、実験台に出る「羽根と軸の角度」とは区別してください。
Miyahara(2006)には、軸と羽根の色を変えると錯覚が弱まったという結果もあります。実験台では、角度、長さ、色、軸の有無を一つずつ変えられます。違いが小さくなる条件を探してから、元の形へ戻してみてください。
一時停止の文字は、どれだけ違う長さだった?
一時停止の実験では、下の軸を480 pxに固定し、上の軸をAからMへ、16 pxずつ短くしています。本当に同じ長さなのはDだけです。止めた文字と実寸を照らし合わせてみましょう。
| 文字 | 上の軸(px) | 下との差(概算・整数に丸めた割合) |
|---|---|---|
| A | 528 | +10% |
| B | 512 | +7% |
| C | 496 | +3% |
| D | 480 | 0% |
| E | 464 | −3% |
| F | 448 | −7% |
| G | 432 | −10% |
| H | 416 | −13% |
| I | 400 | −17% |
| J | 384 | −20% |
| K | 368 | −23% |
| L | 352 | −27% |
| M | 336 | −30% |
割合は「(上の軸−480)÷480×100」です。たとえばGでは、上は下より48 px、ちょうど10%短くなっています。そこで同じに見えたなら、その条件では、短い軸を下の軸と同じ長さだと感じたことになります。
この表は、実験用に設定した長さの一覧です。人が平均して何%ずれるかを示す研究の表ではありません。錯覚の大きさは形や測り方でも変わるため、止めた文字から、あなたの目のずれをいつでも同じ割合だとは決められません。
垂直水平錯視:縦だから長い、それだけ?
次は「⊥」の形です。横線の全体と、中央から立つ縦線を比べてください。

縦が長く見える人が多いと言われていますが、実寸はどちらも 400 px です。縦線を下端のまわりに90°倒し、左へ200 px移すと、横線と端点まで重なります。青い破線は、倒して移した縦線です。縮めて合わせてはいません。

図をまるごと倒すと、説明の手がかりが増える
「縦は長く見える」だけで説明できるなら、図全体を90°倒したときはどうでしょう。今度は横に突き出した線と、縦線の全体を比べます。

Mamassianとde Montalembert(2010)の研究では、横に倒しても、突き出した線が長く見える結果が出ています。Chouinardら(2017)でも、倒した向きに錯覚が残っています。向きに加えて、線のつき方にも注目する必要があります。
Mamassianらは、縦横の「向き」と、片方の線が中央で二つに分けられる「二分」の効果を分けました。一方、MikellidouとThompson(2013)は、二分の効果を、線が突き当たる効果と交差する効果に分けるべきだと提案しています。同じT字でも、何を一つの効果として数えるかが違うのです。
線を離した条件などで報告される、向きによる差の目安は約6〜7%です。これは研究の条件での推定値で、この記事のT字の線が実際に6〜7%違う、という意味でも、あなたにもその差が出るという意味でもありません。
見える範囲が「枠」になるという説
Künnapasの研究で知られる「枠の説」は、両目で見える範囲が横に広いことに注目します。その中で、縦線は横線より枠のふち近くまで届くので、長く感じられるという考えです。Künnapas(1957)の周囲の枠を変える研究は、Chouinardら(2017)でも紹介されています。
PrinzmetalとGettleman(1993)は、片目で見ると錯覚が小さくなったと報告しました。縦長の枠では横長の枠より錯覚が弱まるという結果も、枠の考え方を支持する材料です。ただし、これだけでT字のつき方の効果まで説明しきれたわけではありません。向きとつき方をどう組み合わせればよいかは、まだ分かっていません。
ポンゾ錯視:奥の棒は、本当に長い?
すぼまる2本の線のあいだにある横棒を比べてください。上の棒が長く見えませんか。これは、Ponzoの名を持つポンゾ錯視です。初期の文献として、Yildizら(2022)はPonzo(1910)を引用しています。

背景を消して確かめると、どちらも240 px
2本の棒はどちらも 240 px です。上の棒は、真下へ536 px動かすだけで下の棒に重なります。まわりを消した確認図では、青い補助線も両端を結んでいます。

次にレールを平行にすると、棒の端からレールまでのすき間が、上下とも片側約11.8 pxになります。差の感じ方は変わるでしょうか。そろえたのは横方向のすき間で、レールの端までの距離など、周囲の条件すべてではありません。

奥行きの説を、廊下で考える
床の目地、壁と天井、光と影を足すと、上の棒を廊下の奥にある棒として見やすくなります。奥の棒は、線だけの図より長く感じられませんか。

奥行きによる説明は、遠くにある物の大きさを読み取る働きが、絵の中の棒の判断にも関わる、というものです。この廊下の作図条件で、棒が床の上にあると仮定して計算すると、次の長さになります。
| 棒の位置 | 元画像での長さ | もし本物の廊下なら(概算) |
|---|---|---|
| 奥 | 240 px | 2.0 m |
| 手前 | 240 px | 0.55 m |
計算上は奥が手前の約3.6倍です。目の高さ1.6 m、廊下の幅2.2 mなど、この絵のカメラ条件から求めた値です。「人には3.6倍長く見える」と測った値ではありません。
見え方を測った別の研究として、Murray・Boyaci・Kersten(2006)は、廊下の絵に、画面上では直径が同じ球を置いて比べました。奥の球の見かけの直径が少なくとも17%大きいと報告しています。これは球の直径についての結果で、この棒の錯覚の強さを17%と決めるものではありません。
「すき間」の説も残る理由
奥行きを感じにくい、レール状の線だけの図でもポンゾ錯視は起きます。Landwehr(2023)などは、棒の端と周囲の線とのすき間を重視しています。上の棒はレールに近く、下の棒は離れている。その関係が、長さの見え方に効くという説です。
奥行きの手がかりを足すと錯覚が強まった研究は、奥行きによる説明を支えます。ただし、それで線だけの図まで同じ仕組みだと決まるわけではありません。Yildizら(2022)の総説、つまり研究をまとめた論文も、奥行きに基づく説明と、奥行きを必要としない説明を整理しています。両者がどの図でどれだけ働くのかは、まだ分かっていません。
よくある問い
同じ長さだと知れば、錯覚は消えますか?
知っても違って見えることがあります。ミュラー=リヤー錯視は、その例として心の研究でも取り上げられます。一方、Predebon(1998)には、ブレンターノ型と呼ばれるミュラー=リヤーの図を見比べ続けると錯覚が弱まったという結果があります。「知ること」と「見比べを続けること」は分けて考える必要があり、この結果を垂直水平・ポンゾのすべてへ広げることはできません。
錯覚が見えないのは、おかしいことですか?
おかしいことではありません。見え方には個人差があり、図の形や条件でも変わります。同じに見えても、違って見えても、その答えを記録して確かめてみてください。ずれの大きさに良い悪いはなく、この測定から知能・性格・健康・視力を診断することはできません。
実験台の線は、いつでも同じ長さですか?
最初の問いと実験1〜3では、比べる線を同じ長さにしています。「測る」「出題」「今日の1問」では、わざと異なる長さも使います。数字はその場の青い定規で確かめてください。実験台の定規は1000×1000の舞台の座標を示すため、この記事の本編用画像のpx値とも区別します。
実験台で、今日の自分の答えを探す
この回のページの「試す」にある実験台へ進んでみてください。まず「端」で羽根の角度を動かし、差が消えたと感じた所で止めます。次に「向き」で形を変え、「奥行き」で背景を足したり、奥の棒をつまんで手前まで動かしたりしてみましょう。
「測る」では、同じ長さに見えるように線を合わせます。羽根の角度30°・60°・90°を2回ずつ、合計6回試し、最後に各回と平均を見られます。90°は上下が同じ形になる比較条件です。そこでも出るずれには、目と指で合わせるときの誤差が含まれます。
測定は診断ではありません。見え方には個人差があり、ずれが大きくても小さくても良い悪いはありません。疲れたらいつでもやめて大丈夫です。目で見た長さをどこまで信用できるか、図と条件を変えながら、今日の自分の答えを確かめてみてください。
ショート
出典
動画とこのページで使った事実・数字の出どころです。
参考にした文献
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- Dewar (1967) Perceptual and Motor Skills 24:708–710
- Murray, Boyaci & Kersten (2006) Nature Neuroscience 9:429–434
- Predebon (1998) Perception 27:183–192
- Mamassian & de Montalembert (2010) Vision Research 50:956–962
- Mikellidou & Thompson (2013) Journal of Vision 13(8):7
- Chouinard, Peel & Landry (2017) Frontiers in Human Neuroscience 11:143
- Yildiz, Sperandio, Kettle & Chouinard (2022) Psychonomic Bulletin & Review 29:293–320
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リンク
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- pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11301517
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- publications.aston.ac.uk/id/eprint/44080/1/Schofield2022_VoR.pdf
- pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17775578
声・音・絵
- 声: Irodori-TTS / Kokoro (Bella)/BGM: 「さみしいおばけと東京の月」しゃろう / 「日曜の午後」KK
