カフェウォール錯視、平行なはずの線が傾いて見える? |錯覚ラボ #04
種明かし
- カフェウォール・ツェルナー・ヘリングの3つで、平行な線やまっすぐな線が傾いて見えます。
- タイルをずらしたり線を白くしたり図を回したりすると、錯覚の見え方が変わります。
- 定規を当てて確かめられ、実験台ではタイルのずれ・線の明るさ・短い線の角度を変えられます。
動画
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解説
動画の流れ
タイルのあいだの灰色の線どうしは、間隔が変わらずに、平行に並んで見えますか。斜めの線や、放射状の線の上の2本は、どう見えるでしょうか。
カフェウォール錯視、ツェルナー錯視、ヘリング錯視には、線そのものの形と、目に見える形が食い違うことがあります。このページでは、まず図を見てから、青い補助線で確かめます。そのうえで、「どんな条件で見え方が変わるか」と「なぜそう見えるかについての仮説」を分けて読み解きます。傾きや曲がりが見えない人も、そのまま比べてみてください。
カフェウォール錯視:タイルのあいだの線は平行?
図全体をながめながら、灰色の横線どうしを比べてください。右へ行くほど間隔が広がったり、狭まったりして見えますか。次の確かめる図へ進む前に、自分の見え方を覚えておきましょう。

青い破線を重ねると、灰色の線は4本とも水平です。傾きはどれも0°。線どうしの間隔も一定で、互いに平行です。青い線のすき間から、元の灰色の線が見えます。

この、タイルの段のあいだの線が傾いて見える現象がカフェウォール錯視です。「目地」は、タイルとタイルのあいだの帯のこと。この図では灰色の横線に当たります。
Gregory と Heard の1979年の論文は、研究室の Steve Simpson がイギリス・ブリストルのカフェの壁でこの見え方に気づいた経緯を紹介しています。「カフェウォール」という名前もこの論文に由来します。ただし、カフェで初めて現象が発見されたという意味ではありません。北岡明佳の2007年の総説では、Fraser が1908年に先に示していたと整理されています。
タイルだけをずらすと、何が変わる?
本編では灰色の線を固定し、2段目と4段目のタイルだけを右へ動かしています。最初のずれはタイル半分。市松模様、つまり明暗が交互にそろう並びでは、傾きが見えなくなると報告されています。さらにずらすと、見かけの傾きの向きが逆になり、縦の列がそろう並びでも傾きが見えなくなると報告されています。
この比較で大切なのは、灰色の線は一度も動かしていないことです。位置も傾きも同じまま、周りの配置を変えています。実験台で試す時も、最初は「タイルのずれ」だけを動かすと、何を変えた結果なのかを追いやすくなります。
白い目地にすると、必ず消える?
線の明るさも条件の一つです。Gregory と Heard は、目地の明るさが暗いタイルと明るいタイルのあいだにある時に錯視が起き、目地の太さによっても強さが変わると報告しています。本編の明るいタイルは薄い灰色で、白くした目地はそれよりも明るくなります。
ただし、「白くすれば必ず消える」とは言えません。同じ研究では、目地が目に入る太さで約2.7分より細い時には、明るさがタイルの範囲から少し外れても錯視が残る場合がありました。ここでの「分」は角度の単位で、1°の60分の1。画面上の太さと見る距離を合わせて、目から見てどれほど細いかを表しています。
また、目地が太くなるほど錯視は弱まり、約10分より太い条件ではほとんど見えなくなったと報告されています。これらはその研究の条件で得られた目安です。画面の画素数だけで、自分にも同じ強さで見えるとは決められません。
ツェルナー錯視:短い線で、長い線の向きが変わる?
次は長い斜めの線です。短い線の向きが交互に違いますが、比べるのは5本の長い線どうし。間隔が変わらず、平行に並んで見えますか。

実験台では、まず「短い線を表示」を切り、長い線だけを見てから戻してみてください。長い線は動かしません。その後で定規を当てると、5本とも水平に対して右上がり45°で、平行だと確かめられます。

これがツェルナー錯視です。F. Zöllner は1860年の論文で、布に刷る模様の図案で気づいたことと、測れば線が完全に平行だと簡単に確かめられることを書いています。見え方と測った形を比べる方法は、元の報告にも登場します。
交わる角度と、図全体の向きは別の条件
北岡の2007年の総説では、短い線と長い線がつくる小さい方の角が10°〜30°の時に、錯視が強いと報告されています。この回の図は約26.6°で、Webの初期表示は丸めた27°です。45°は長い線と水平との角度、約26.6°は短い線との交わる角度。別の量です。
さらに、Zöllner 自身は長い線が斜め約45°の時に最も強く、水平や垂直の時に最も弱いと書いています。総説でも、斜めの方が強いという後の研究が紹介されています。
本編のように図全体を回すと、短い線と長い線の交わる角は保たれたまま、全体の向きだけが変わります。実験台でも「短い線の角度」と「図の向き」を一つずつ動かし、自分にはどちらが効くかを比べられます。
ヘリング錯視:放射の上の2本は、曲がっている?
真ん中から広がる放射状の線に、横線を2本重ねました。横線の中央が、上は上へ、下は下へと、外側にふくらんで見えますか。それとも、まっすぐに見えますか。

実験台で放射を「なし」にし、横線の見え方を比べてから戻してみましょう。青い破線を当てると、2本とも両端を結んだ直線と重なります。実際の曲がりは0%です。

この、まっすぐな2本が外側へ曲がって見える現象がヘリング錯視です。生理学者 Ewald Hering が1861年の『Beiträge zur Physiologie(生理学への寄与)』で紹介しました。放射を消す前後で横線は同じですから、この比較でも、線の形と周りの模様を分けて確かめられます。
逆向きの問い:曲がった線が、まっすぐに見える?
放射は同じまま、次の図へ進みます。今度の2本は、まっすぐに見えますか。先ほどの図との差を当てる必要はありません。今、自分にどう見えるかを見てください。

次は放射だけを消した図です。ここでは、まだ方眼も青い線も出していません。横線の中央を、両端と比べてみてください。

実は、この2本は内側へ曲げてあります。上の線は下へ、下の線は上へ。青い破線はそれぞれの両端を結んだ直線なので、中央でのずれを確かめられます。右上は同じ部分の3倍の拡大です。

この回でいう「曲がり1%」は、中央が両端を結ぶ直線からずれた距離 ÷ 両端の距離 × 100です。両端の距離600に対してずれは6なので、ちょうど1%。角度が1°という意味でも、見る人の錯視の強さが1%という意味でもありません。
放射のある最初の図がまっすぐに見えた人には、内側へ曲げた線が、その条件でまっすぐに見えたことになります。曲がって見えた人も含め、1%が全員に合う値とは限りません。
Vaughn と Eagleman の2013年の研究でも、参加者が線を曲げて、まっすぐに見える所を探す方法が使われています。本編の1%は、研究のグラフからの読み取りと換算を参考にした図の設定値です。研究に「誰でも1%でまっすぐに見える」と書いてあるわけではありません。
図で確かめた寸法を並べる
次の表は、見る人の回答の平均ではなく、このページと本編で使う横の図の設計値です。「単位」は図の中の座標の単位で、画面の画素やミリメートルではありません。画像を拡大・縮小しても、角度や長さの比は同じです。
| 図 | 実際の形・寸法 | 青い補助線で確かめる所 |
|---|---|---|
| カフェウォール | 灰色の線4本、すべて0°。中心の高さは160・240・320・400単位、間隔80単位 | 左右で高さが変わらず、互いに平行 |
| ツェルナー | 長い線5本、すべて右上がり45° | 全部が同じ向きで平行 |
| ヘリングの直線 | 2本とも中央のずれ0単位、曲がり0% | 両端を結ぶ直線と重なる |
| 内側へ曲げた2本 | 両端の距離600単位、中央のずれ6単位、内側へ1% | 端は直線に乗り、中央だけが内側へずれる |
なぜそう見える? 確かめたことと、仮説の境目
とがった角が、大きく見えるという考え
ツェルナー錯視とヘリング錯視には、比べたい線に別の線が斜めに交わる共通点があります。その交点の小さい方の角を「鋭角」と呼びます。昔からある説明は、このとがった角が実際より大きく見えるため、線の向きもずれて感じられる、というものです。
ヘリングの図では、放射と横線の交わる角度が、場所によって違います。Hering 自身も、それぞれの場所での向きのずれが続くことで、全体が曲がって見えると考えました。局所の向きのずれから、長い線の曲がりを説明しようとする仮説です。
ただ、これで原因がすべて分かったことにはなりません。なぜとがった角が大きく見えるのかは、まだ分かっていない部分があり、研究が続いています。
単純な角の説明では、足りない所
ツェルナーの図を丸ごと回しても、交わる角の大きさは変わりません。それでも、図全体の向きで錯視の強さが変わると報告されています。この比較からは、交わる角度だけを見れば見え方がすべて決まる、という説明では足りないと考えられます。
さらに、この回のカフェウォールの図には斜めの線が一本もありません。水平な目地と、縦横の辺を持つタイルだけです。斜めの線が交わるという説明を、そのまま当てはめることはできません。
カフェウォールについて確かめられているのは、タイルのずれ、明暗差、目地の明るさや細さによって、錯視の出方が変わるという条件です。条件が分かることと、それを生む仕組みが分かることは別です。目の研究者 Michael Bach も、自分の解説ページで、見かけの傾きがどう生まれるのか分からないと書いています。仕組みにはまだ分かっていないことがあり、この図だけから特定の目や脳の働きが原因だと言い切ることはできません。
よくある問い
平行だと知れば、錯視は消えますか?
知った後でも、傾いて見えることがあります。もう一度、青い線のない最初の図に戻ってみてください。「平行だと分かっている」と「平行に見える」を、自分の中で比べられます。どちらに見えても、図の実際の寸法は同じです。
白い線にしても傾いて見えるのは、なぜですか?
目地の明るさだけでなく、細さも条件だからです。Gregory と Heard の研究では、非常に細い目地なら、明るさがタイルの範囲から少し外れても錯視が残る場合がありました。画面の大きさや見る距離でも、目に入る太さは変わります。実験台では、明るさを変えた後、太さも一つずつ変えて比べてみてください。
放射の線を増やせば、曲がりも必ず大きく見えますか?
Retsa らの2024年の研究では、放射7本・11本・15本の条件で、本数が多いほど、まっすぐに見えるために要る曲がりが大きかったと報告されています。この回の実験台の36本・18本・なしは別の設定です。同じ数値や順番の結果になるとは約束できません。自分の記録で、放射のない時との違いを見てください。
あまり錯視が見えない時は、参加できませんか?
そのまま参加できます。見え方には個人差があり、画面の大きさや見る距離でも変わります。実験台の測定は、その条件で自分にまっすぐ見えた所を記録するものです。視力・健康・性格の診断や、錯覚に強い人・弱い人を分ける検査ではありません。
実験台で、自分の「まっすぐ」を探す
この回のページの「試す」欄で、まっすぐの実験台を動かせます。「大きな画面で開く」から、実験台だけを開くこともできます。最初は補助線のない「見る」状態から始まります。次の順なら、何を変えて見え方が変わったのかを追いやすくなります。
- 「タイル」で定規を当てて確認し、「見るに戻る」へ。タイルのずれだけを動かし、次に線の明るさ、太さを一つずつ変える。
- 「斜めの線」で短い線を消して戻す。次に短い線の角度と図の向きを別々に変え、最後に定規で確認する。
- 「放射状の線」で放射を消して戻す。曲がりのつまみで自分にまっすぐ見える所を探してから、定規を当てる。
「まっすぐ探し(6回)」では、放射36本・18本・なしを各2回試します。比べる線の長さ・間隔・太さ・位置は同じで、放射の本数を比べる組み方です。提示の順や開始時の曲がりも変わるので、つまみの中央を正解の目印にせず、自分の見え方で決めてください。
結果では、まず「なし」の行と、放射のある行を比べます。点が内側へ寄っていれば、その条件では内側へ曲げた線がまっすぐに見えた記録です。各条件は2回だけなので、点が離れる場合もあります。画面の向きを決めてから始め、前の記録と図の大きさが違う時は、そのまま比べないようにしましょう。
見え方には個人差があり、この測定は診断ではありません。保存した記録は端末の中に残り、ページの機能から外のサーバーへ送られません。まず目で見て、周りの条件を変え、最後に定規を当てる。その往復を、自分の手で試せます。
ショート
出典
動画とこのページで使った事実・数字の出どころです。
- Richard Gregory 著者側掲載(Gregory, R. L. & Heard, P. (1979). Border locking and the Café Wall illusion. Perception, 8, 365–380. 名前の由来、目地の明るさ・太さと錯視の条件)richardgregory.org/papers/cafe_wall/cafe-wall_all.htm
- 立命館大学・北岡明佳の著者側PDF(Kitaoka, A., Pinna, B. & Brelstaff, G. (2004). Contrast polarities determine the direction of Café Wall tilts. Perception, 33, 11–20. カフェウォールの傾いて見える向き)psy.ritsumei.ac.jp/akitaoka/CafeWall.pdf
- Michael Bach の解説サイト(Bach, M. Café Wall Illusion. タイルの並びと目地の明るさ、仕組みについての留保)michaelbach.de/ot/ang-cafewall
- Internet Archive の原論文スキャン(Zöllner, F. (1860). Ueber eine neue Art von Pseudoskopie und ihre Beziehungen zu den von Plateau und Oppel beschriebenen Bewegungsphänomenen. Annalen der Physik und Chemie, 110, 500–523. 布の図案、平行の確認、図の向きによる違い)archive.org/details/sim_annalen-der-physik_1860_110_7
- 立命館大学・北岡明佳の著者側PDF(Kitaoka, A. (2007). Tilt illusions after Oyama (1960): A review. Japanese Psychological Research, 49, 7–19. ツェルナー錯視の角度・向き、カフェウォールの歴史を整理した総説)psy.ritsumei.ac.jp/akitaoka/tiltillusionreview2007.pdf
- Internet Archive の原著スキャン(Hering, E. (1861). Beiträge zur Physiologie. Erstes Heft. Leipzig: Engelmann, p. 74, Fig. 25. 直線が曲がって見える図と、交わる角による説明)archive.org/details/beitrgezurphysi00herigoog
- PubMed Central の論文全文(Vaughn, D. A. & Eagleman, D. M. (2013). Spatial warping by oriented line detectors can counteract neural delays. Frontiers in Psychology, 4, 794. まっすぐに見えるまで曲がりを調整する測定法。本編の1%の参考は図からの概算)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3814518
- PubMed Central の論文全文(Retsa, C. et al. (2024). A psychophysically-tuned computational model of human primary visual cortex produces geometric optical illusions. Current Research in Neurobiology, 7, 100140. 放射の本数と、まっすぐに見えるための調整量)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11621505
- Illusions Index の解説(Hering Illusion. 外側へ曲がって見える現象と、鋭角が大きく見える仕組みの未解決点)illusionsindex.org/i/hering-illusion
声・音・絵
- 音楽:「さみしいおばけと東京の月」しゃろう/「日曜の午後」KK。シリーズの音楽の棚から使用。
- 効果音:Kenney Interface Sounds(CC0)。見る時間の小さい空気音はタメラボ制作。
