タメラボ English

5分でわかる名作#10

杜子春(芥川龍之介)なぜ、最後に声を出した?|5分でわかる名作 #10

この話の要点

  1. 財産を使い果たした若者・杜子春が、仙人の弟子になり、声を出さない試練に挑む話です。
  2. 地獄で父母が打たれても黙っていた彼は、母の言葉を聞いて「お母さん」と一声を上げます。
  3. 人に失望した杜子春に、黙っていてよいという母の言葉はどう響いたのか、と問いが残ります。

ほかの言い方杜子春 あらすじ杜子春 要約芥川龍之介 杜子春杜子春 結末杜子春 母の言葉杜子春 なぜ声を出した杜子春 読書感想文

動画

再生を押すと、YouTube の動画をこのページの中で読み込みます。 YouTube で見る

解説

芥川龍之介『杜子春』(とししゅん)のあらすじを、六つの章の順にたどります。結末まで扱います。 事実は、青空文庫の新字新仮名版『杜子春』の本文だけを根拠にしています。引用は本文のままで、どの章かを添えました。

30秒で分かるあらすじ

洛陽で財産を使い果たした若者、杜子春。老人に教えられ、夕日に映る影の「頭」の所を夜中に掘って大金持ちになります。けれど贅沢で使い果たすと、友だちは離れていきました。二度目も、また使い果たします。

三度目、杜子春は金を断り、仙人・鉄冠子の弟子になります。決して声を出すなと命じられ、虎にも神将にも、地獄の責め苦にも黙り続けました。ところが、馬の姿で打たれる母が、言いたくないことは黙っていていいと伝えた時、「お母さん」と叫びます。仙人にはなれず、それを喜び、人間らしい正直な暮らしを選びます。

登場人物

  • 杜子春(とししゅん):元は金持ちの息子。財産を使い果たし、洛陽の西の門の下で途方に暮れている若者。
  • 鉄冠子(てっかんし):峨眉山に住む仙人。はじめは片目をすがめた老人として現れ、杜子春に二度、黄金のありかを教える。
  • 杜子春の父と母:すでに亡くなっている。地獄で、顔は父母のまま、体は二匹の痩せ馬の姿で引き立てられる。
  • 神将:峨眉山の岩の上に現れる、金の鎧を着た巨大な神の将軍。三叉の戟(ほこ)を持ち、無数の神兵を従える。
  • 閻魔大王:地獄の森羅殿の主。黒い袍に金の冠。杜子春に返答を迫る。
  • 鬼たち:閻魔大王の命令で杜子春を地獄に投げ込み、父母の馬を鞭で打つ。

動画と記事の絵は、この回のために描いた挿絵です。人物の顔立ち・衣装・年ごろは作画上の設定で、本文に書かれた事実ではありません。

六章のあらすじ

『杜子春』六つの章の出来事(行の高さは時間の長さではありません)
『杜子春』六つの章の出来事(行の高さは時間の長さではありません)

第一章 洛陽の西の門と、影の頭

ある春の日暮れ、唐の都・洛陽の西の門の下に、杜子春がぼんやり空を見上げています。財産を使い尽くし、今夜寝る所もありません。そこへ片目のすがめた老人が現れ、「お前は何を考えているのだ」と声をかけます。正直に答えた杜子春に、老人は、夕日の中に立って地面に映った影の、頭に当たる所を夜中に掘ってみよ、と教えて姿を消します。

第二章 二度の富と、二度の没落

杜子春は言われたとおりに掘り、大きな車にも余るほどの黄金を手に入れて、一日で洛陽一の大金持ちになります。立派な家を買い、贅沢の限りを尽くし、毎日酒盛りを開きました。それまで挨拶もしなかった友だちが、毎日やって来ます。

しかし贅沢を続けるうちに金は減り、三年目の春には一文無しに。すると友だちは門の前を通っても挨拶ひとつせず、一杯の水を恵む人さえいなくなりました。再び西の門に立つ杜子春の前に、老人がまた現れ、今度は影の胸に当たる所を教えます。杜子春はまた天下一の大金持ちになりますが、また三年ほどで使い果たしてしまいました。

富を得るのは、この二度です。

第三章 金を断り、仙人の弟子へ

三度目、老人が影の腹に当たる所を言いかけると、杜子春は手を挙げてさえぎり、「お金はもういらない」と言います。贅沢に飽きたのではなく、

「人間というものに愛想がつきたのです」(第三章)

というのです。金持ちの時は世辞を言い、貧乏になれば優しい顔さえ見せない人間は、みな薄情だ、と。では貧乏でも安らかに暮らすつもりかと問われると、杜子春は少しためらい、「それも今の私には出来ません」と答えて、仙術の弟子にしてほしいと願い出ます。老人は、峨眉山に住む仙人・鉄冠子だと名乗り、杜子春を弟子にしました。二人は一本の青竹にまたがり、竜のような勢いで春の夕空を峨眉山へ飛んでいきます。

第四章 沈黙の約束と、山の試練

峨眉山の、深い谷に臨んだ一枚岩の上。鉄冠子は天上へ出かける間、杜子春を絶壁の下に坐らせて、こう命じます。

「決して声を出すのではないぞ」(第四章)

一言でも口をきけば仙人にはなれない、天地が裂けても黙っていろ、と。杜子春は「命がなくなっても、黙っています」と約束しました。

一人になると、空から返事を迫る声がします。黙っていると、虎と白い大蛇が現れて一度に飛びかかりますが、霧のように消えました。次は黒雲と稲妻と滝のような雨、そして火柱。それも消えると、今度は坐っている杜子春の前に、金の鎧の巨大な神将が現れ、三叉の戟を胸もとへ向けて返答を迫ります。それでも黙っていた杜子春は、神将の戟にひと突きに殺されてしまいました。北斗の星が照らす岩の上に、杜子春の体は仰向けに倒れていました。

第五章 地獄の責め苦、父母、そして一声

杜子春の魂は体から抜け出し、地獄の森羅殿の前へ。閻魔大王に、何のために峨眉山の上に坐っていたかを問われても、鉄冠子の戒めを思い出して答えません。剣の山、焔の谷、氷の海など、あらゆる責め苦にあっても、一言も口をききませんでした。

閻魔大王は、杜子春の父母を引き立ててこさせます。現れたのは二匹の痩せ馬でしたが、顔は死んだ父母そのものでした。白状しなければ父母に痛い思いをさせる、と脅されても、杜子春は答えません。鬼たちの鉄の鞭が二匹の馬を打ち、馬は倒れ伏します。杜子春は必死に目をつぶっていました。

その時、ほとんど声とはいえないほどのかすかな声が、杜子春の耳に届きます。母の声でした。母は、自分たちはどうなっても、お前さえ幸せになれるならそれでいい、と伝え、こう結びます。

「大王が何と仰っても、言いたくないことは黙って御出で」(第五章)

杜子春は思わず目を開き、倒れたままの馬が悲しそうに自分を見ているのを見ました。鞭に打たれたことを怨むそぶりさえ見せない母の思いやりを知った杜子春は、老人の戒めも忘れて駆け寄り、両手で馬の首を抱いて、涙を落としながら一声を叫びます。

「お母さん」(第五章。原文のルビは「おっかさん」)

第六章 同じ門へ、そして正直な暮らし

その声に気がつくと、杜子春は夕日を浴びて、洛陽の西の門の下に立っていました。霞んだ空も、白い三日月も、人や車の波も、峨眉山へ行く前と同じです。

結末:仙人になれなかった後、何を選ぶか

「とても仙人にはなれはすまい」と微笑む老人に、杜子春はこう答えます。

「なれません。なれませんが、しかし私はなれなかったことも、反って嬉しい気がするのです」(第六章)

涙を浮かべて老人の手を握り、地獄で鞭を受けている父母を見ては黙っている訳にはいかなかった、と言う杜子春。すると鉄冠子は急に厳かな顔になり、もしお前が黙っていたら、その場で命を絶つつもりだった、と告げます(第六章)。仙人の資格を与えたわけでも、優しくほめたわけでもありません。

これから何になるつもりかと問われ、杜子春は晴れ晴れとした声で答えました。

「何になっても、人間らしい、正直な暮しをするつもりです」(第六章)

鉄冠子は、二度と会わないと言って歩き出しますが、足を止めて、泰山の南の麓にある家を畑ごと与えよう、今ごろは家のまわりに桃の花が一面に咲いているだろう、と付け加えます。修業に行った峨眉山とは別の山です。物語はここで終わり、杜子春がその家でどう暮らしたかは書かれていません。

母の言葉を読み返す

「声を出せ」という脅し(要約)と、母の言葉(原文)
「声を出せ」という脅し(要約)と、母の言葉(原文)

この話では、杜子春に「声を出せ」と迫る言葉が何度も出てきます。空の声は返事をしなければ命はないと言い、神将は命を取ると言い、閻魔大王は地獄の責め苦と、父母への罰で脅します(上の図の「声を出させようとする言葉」は、どれも本文をまとめた要約です)。杜子春は、そのどれにも答えませんでした。

母の言葉だけが、反対のことを言います。言いたくないことは黙っていていい。しかもその前に、自分たちはどうなっても、お前さえ幸せになれるならそれでいい、と言っています(要約)。本文は、それを聞いた杜子春が「母親はこんな苦しみの中にも、息子の心を思いやって」いることを知る、と書き、金持ちには世辞を言い貧乏人には口もきかない「世間の人たち」と比べています(第五章)。

声を強いる脅しには黙り通した杜子春が、声を出さなくていいという言葉を聞いて、声を出す。この順番は、本文のとおりです。

読み解きの問い

ここからは、本文をつないだ一つの読み方です。作者のただ一つの意図だとは言いません。

  • 第三章の失望と、第五章の母の言葉は、どうつながるでしょう。 第三章で杜子春は「人間というものに愛想がつきた」と言いました。第五章で本文は、母の思いやりを、世辞を言っては離れていった世間の人たちと並べています。人に失望した杜子春に、母の言葉はどう響いたのでしょうか。
  • 第六章の鉄冠子の言葉を、どう受け止めますか。 「もしお前が黙っていたら、おれは即座にお前の命を絶ってしまおうと思っていたのだ」という厳しい言葉は、「何になっても、人間らしい、正直な暮し」という答えの直前に置かれています。
  • 杜子春は、何を選び直したのでしょう。 金持ちにも仙人にもならず、第三章では「今の私には出来ません」と言った暮らしを、第六章では自分から選んでいます。

よくある問い

杜子春はなぜ声を出したのですか?

地獄で、馬の姿の父母が鞭で打たれても黙っていた杜子春は、母が自分たちより息子の幸せを願い、「言いたくないことは黙って御出で」と伝えたのを聞いて、思わず目を開き、馬の首を両手で抱いて「お母さん」と叫びました(第五章)。拷問に耐えられなくなったから、とは本文に書かれていません。自分を思いやる母の言葉を聞いた後の一声です。

母は何と言ったのですか?

「心配をおしでない。」で始まり、自分たちはどうなっても、お前さえ幸せになれるのならそれでいい、と伝え、「大王が何と仰っても、言いたくないことは黙って御出で」と結びます(第五章)。助けを求める言葉ではありません。

杜子春は何回お金持ちになりましたか?

二回です。老人に教えられ、一度目は影の頭、二度目は影の胸の所を掘って黄金を得ました。三度目に老人が腹の所を言いかけた時、杜子春は「お金はもういらない」と断っています(第一〜三章)。

両親は何の動物になっていましたか?

二匹の痩せた馬です。形は見すぼらしい痩せ馬でしたが、顔は死んだ父母のとおりでした(第五章)。

最後にもらう家はどこですか?

泰山の南の麓にある家で、畑ごと与えられます。修業に行った峨眉山とは別の場所です(第六章)。その家で暮らした後の話は書かれていません。

試練は夢だったのですか?

杜子春が気がつくと洛陽の西の門の下に立っていて、景色が峨眉山へ行く前と同じだった、とは書かれています(第六章)。けれど「夢だった」と説明する文はなく、試練がどんな仕組みだったのかも本文は語りません。

原文への道案内

『杜子春』は青空文庫で、無料で全文を読めます(新字新仮名版)。

初めて読むなら、第一章の「或春の日暮です。」から。山場を確かめたいなら、第五章の「心配をおしでない」を探して、その前後を読んでみてください(リンク先は本文の最初から始まります)。全体で六つの章の短い作品です。

出典

動画とこのページで使った事実・数字の出どころです。

参考にした文献

  1. 芥川龍之介『杜子春』、青空文庫(新字新仮名)。底本:『蜘蛛の糸・杜子春』新潮文庫、新潮社(1968年発行、1989年46刷)。初出:『赤い鳥』1920(大正9)年7月号。入力:蒋龍、校正:noriko saito。

リンク

  1. 本文:芥川龍之介『杜子春』(青空文庫)aozora.gr.jp/cards/000879/files/43015_17432.html
  2. 図書カード:底本・入力・校正の情報aozora.gr.jp/cards/000879/card43015.html

声・音・絵

  • 声:Irodori-TTS(合成音声)
  • BGM:「茶屋にて」MATSU/「縁側」siroimu/「百花繚乱」/「藁の記憶」(OpenTracks)
  • 効果音:タメラボがプログラムで合成/Freesound「Whoosh」(CC0)
  • フォント:Shippori Mincho、IBM Plex Sans JP、M PLUS Rounded 1c(SIL Open Font License 1.1)

ほかの回

5分でわかる名作のほかの回

ほかのシリーズの新しい回

YouTube でチャンネル登録する