目で見た速さは、どこまで信用できる? |錯覚ラボ #09
種明かし
- 縞の上では交互に止まって見えますが、2枚とも240ユー毎秒で同じ速さです。
- 端と背景の明るさの差の入れ替わりが関わりますが、中心の理由は研究の途中です。
- 縞を消すと錯覚はほぼ消えるので、青い破線で端のそろい方を確かめられます。
ほかの言い方ステッピング・フィート錯視 なぜフットステップ錯視板が止まって見える錯覚
動画
再生を押すと、YouTube の動画をこのページの中で読み込みます。 YouTube で見る
試す
解説
動画の流れ
問い
黒と白の縦縞の上を、暗い板と明るい板が左右に往復しています。2枚は上下にそろったまま動いているはずなのに、片方が進んでは止まり、もう片方が進んでは止まる、というように交互に速くなったり止まったりして見えることがあります。まるで2本の足が歩いているような見え方です。
この記事では、動画と同じ図と数字を使って、まず「本当はどうなっているか」を確かめます。そのうえで、なぜそう見えるのかについて、確かめられた事実と研究の仮説を分けて紹介します。最後に、条件を自分で変えて試せる実験台への案内があります。

図で確かめる
2枚の板は、ずっと同じ速さです
図は、幅1000の舞台座標で計算しています。数字に出てくる「u(ユー)」は、図の中の単位です。実験窓は幅800uで、縞は1本40u、20本あります。板の幅は80uで、縞2本分ちょうどです。板は左端が180uから740uの間を、240u毎秒の一定の速さで往復します。片道は約2.333秒、1往復は約4.667秒です。
大事なのは、暗い板と明るい板が1つの軌道の計算を共有していることです。別々に計算して「だいたい同じ」にしているのではありません。どの時刻でも、2枚の位置と速さの差は0です。プログラムで5601の時刻を調べて、差が0であることを確かめています。
縞だけを消して一様な灰色の背景に変えると、板の動きは何も変えていないのに、交互に止まって見える感じはほぼ消えます。青い破線を板の左右の端に合わせると、2枚の端がずっとそろって動いていることが分かります。

端の明るさの差が、交互に入れ替わります
ここからは、この記事だけで出す作る側の数字です。明るさは、黒を0、白を255とする数字で決めています。暗い板は38、明るい板は217、縞は黒が0で白が255です。
暗い板の端は、黒い縞の上では差が38しかなく、見えにくくなります。白い縞の上では差が217あり、はっきり見えます。明るい板では反対で、白い縞の上で差が38、黒い縞の上で差が217になります。近い側の差38と遠い側の差217が、2枚の板で対称になるように選んでいます。板の幅が縞2本分ちょうどなので、進んでいる向きの端と反対の端は、いつも同じ色の縞の上にあります。そのため、1枚の板の中では両端の見えやすさがそろい、2枚の間では見えやすい時と見えにくい時が交互に入れ替わります。縞1本を通り過ぎる時間は約0.167秒で、端の明るさの差はこの周期で入れ替わります。
縞を消した後の一様な背景は、明るさの値128です。この時、板との差は暗い板で90、明るい板で89と、差そのものは残ります。消えるのは差ではなく、差の入れ替わりです。だから「差が無くなると錯覚が消える」ではなく、「差が入れ替わらなくなると、錯覚はほぼ消える(弱まる)」という言い方が正確です。
名前と研究の始まり
この現象は、ステッピング・フィート錯視(フットステップ錯視、英語 stepping feet illusion / footsteps illusion)と呼ばれます。提案したのは Stuart Anstis で、2001年の論文「Footsteps and inchworms」で紹介されました。
研究では青と黄の板がよく使われますが、この回では無彩色の板を使っています。色は必須ではなく、無彩色でも起きることが2021年の総説で確認できます。要になるのは、動く端と背景の明るさの差だと考えられています。
なぜそう見えるか
確かめられた事実
動く端と背景の明るさの差が関わることは、確かめられています。Anstis(2004)は、大事なのは進む向きに直角な前と後ろの端の明暗の差で、進む向きに平行な上下の辺ではないことを示しました。また、板の端のそばの縞を取り除いた条件では、錯覚がほぼ消えたと報告されています。縞は単なる目印ではなく、端の明暗の差を変えることで効いている、ということです。
研究の仮説1 速さの感じ方が変わる
1つ目は、端の明暗の差によって速さの感じ方が変わるという仮説です。根拠の1つが Thompson(1982)の研究で、縞模様の見かけの速さを測ると、時間周波数が約8Hzより低い所では明暗の差を下げると遅く見えました。この回の図では、縞のペアを板の端が通り過ぎる時間周波数が3Hzで、その低い側に入ります。
ただし、条件を落としてはいけません。Thompson の研究では16Hzでは逆に速く見えました。「明暗の差が小さいと常に遅く見える」とは言い切れません。また、一様な背景が白と黒に切り替わる条件では錯覚がずっと弱かったという報告もあり、速さの感じ方だけでは説明しきれないと総説は述べています。
研究の仮説2 止まっていても位置がずれて見える
2つ目は、止まっている図でも位置がずれて見える幾何学的な錯覚が土台にあるという仮説です。Sunaga ほか(2008)は静止条件と動き条件を比べて、この錯覚は静止した幾何学錯覚として捉えられ、動きを検出する仕組みの役割はあっても小さい、と結論づけました。板の位置が縞に引き寄せられて見える「位置の捕捉」という考え方も論じられています。動画で板を止めて左端どうしを見比べる場面は、この仮説への橋渡しです。

研究の仮説3 差の小さい端が見えにくくなる
3つ目は、明暗の差が小さい端は、そばにある差の大きい縞の端に抑えられて見えにくくなるという仮説です。総説では、Wade の「隠し絵」の議論と関連づけて提案されています。
まだ分かっていないこと
2021年の総説(Kitaoka & Anstis)は、説明の候補を複数挙げており、1つに決着していません。速さの感じ方が変わるのか、位置の見え方がずれるのか、端が見えにくくなるのか。どれが中心なのかは、まだ分かっていない部分があります。この記事でも、原因を1つに決めて書くことはしません。
条件を変えるとどうなるか
板の通り道だけ縞を消す
板が通る帯だけ縞を消し、帯の外に縞を残しても、交互の見え方は弱まります。画面のどこかに縞があればよいのではなく、端のそばで明るさの差が入れ替わることが大事だという体験になります。これは、端のそばの縞を除くとほぼ消えたという報告に対応する、この回なりの条件変更です。元の研究の図の再現ではありません。

板の幅を縞3本分にする
板の幅を120u、つまり縞3本分に広げると、前と後ろの端が常に反対の色の縞の上に来ます。すると、板が横に伸び縮みして見える条件になります。英語では inchworm(シャクトリムシ)と呼ばれる変形版です。縞を消して確かめると、幅はずっと120uのままです。前と後ろの端が別々に効いていることを示す条件です。


縞の濃さを下げていく
縞の黒と白を一様な灰色へ少しずつ近づけていくと、端の明るさの差の入れ替わりが小さくなります。どこまで下げると交互に見えなくなるかは、人によっても画面によっても変わります。その境目を自分で探すのが、実験台の中心の課題です。
よくある問い
板の色を変えても起きますか?
起きます。色そのものは必須ではなく、無彩色の板でも起きることが総説で確認できます。大事なのは、動く端と背景の明るさの差が入れ替わることです。この回の図は、無彩色の暗い板と明るい板で作っています。
見えなくても異常ですか?
異常ではありません。見え方には個人差があります。画面の大きさ、見る距離、板の速さによっても変わります。この実験は見え方の合わせ方を記録するもので、視力や健康を調べるものではありません。診断には使えません。
片方の板だけでも起きますか?
起きます。1枚だけでも、速くなったり遅くなったりして見えることがあります。2枚が上下に並んでいると、交互さが目立って見えやすくなります。この回で2枚並べているのは、その交互さを見比べやすくするためです。
なぜ起きるかは、もう分かっているのですか?
まだ分かっていない部分があります。端と背景の明るさの差が関わることは確かめられていますが、速さの感じ方の変化か、位置のずれか、端の見えにくさか、どれが中心かは決着していません。総説でも複数の候補が挙げられています。
実験台で試す
この回のページの実験台(Web)では、縞の濃さ、板の速さ、板の幅、縞を消す場所を自分で変えられます。縞の濃さを下げていって、錯覚がほぼ消える境目を探してみてください。一様な背景で「同じに見える速さへ合わせる」6回の測定もできます。
見え方には個人差があります。測定の記録は端末の中だけに保存され、外のサーバーへは送りません。この実験は、視力を調べるものではありません。強い明暗の縞と動きがあるので、気分が悪くなったら止めるボタンで止めてください。
出典
動画とこのページで使った事実・数字の出どころです。
- Anstis, S. (2001). Footsteps and inchworms: Illusions show that contrast affects apparent speed. Perception, 30, 785–794.doi.org/10.1068/p3211
- Anstis, S. (2004). Factors affecting footsteps: Contrast can change the apparent speed, amplitude and direction of motion. Vision Research, 44(18), 2171–2178.doi.org/10.1016/j.visres.2004.03.015
- Thompson, P. (1982). Perceived rate of movement depends on contrast. Vision Research, 22(3), 377–380.doi.org/10.1016/0042-6989(82)90153-5
- Sunaga, S., Sato, M., Arikado, N., & Jomoto, H. (2008). A static geometrical illusion contributes largely to the footsteps illusion. Perception, 37(6), 902–914.doi.org/10.1068/p5689
- Kitaoka, A., & Anstis, S. (2021). A review of the footsteps illusion. Journal of Illusion, 2, 5612.doi.org/10.47691/joi.v2.5612
- Kitaoka, A., & Anstis, S. (2015). Second-order footsteps illusions. i-Perception, 6(6).doi.org/10.1177/2041669515622085
声・音・絵
- 声:合成音声(日本語 Irodori-TTS/英語 Kokoro)
- 音楽:「さみしいおばけと東京の月」(作曲 しゃろう)、「日曜の午後」(作曲 KK)
- 効果音:Kenney Interface Sounds(CC0)ほか
