タメラボ English

錯覚ラボ#07

目で見た『ある』は、どこまで信用できる?|錯覚ラボ #07

種明かし

  1. 描き続けている点や円盤が、見つめている間に目からだけ消えて見えます。
  2. 変わらない物への反応が弱まる考えが有力ですが、仕組みは3つとも同じとは言えません。
  3. 数を数えることと、最初のコマと最後のコマの画素を比べることで確かめられます。

ほかの言い方消える錯覚トロクスラー効果 なぜ運動誘発盲12個の点 錯覚ニニオの消去錯視

動画

再生を押すと、YouTube の動画をこのページの中で読み込みます。 YouTube で見る

試す

この回の実験台です。ページの中でそのまま動きます。

大きな画面で開く

解説

画面に描き続けている物が、自分の目からだけ消えてしまうことがあります。この回では、消え方の違う3つの図を比べます。12個の点、薄い円盤、回る十字の中の黒い丸です。どれも「本当にずっと描いてあったのか」を、数と画素(画面の小さな色の点)で確かめられるように作ってあります。

問い:数えないで、一目でいくつ見えますか

格子と黒い点の図
格子と黒い点の図

格子の交わるところに、黒い点があります。数えないで、一目で全部の点が見えますか。1つの点を見つめると、離れた点が見えなくなったり、格子に溶けたように感じたりする方が多いはずです。待ち時間は要りません。見た瞬間から、全部は同時に見えていないのです。

数えて確かめる

青い輪と番号で数えた図
青い輪と番号で数えた図

青い輪と番号を付けて1つずつ数えると、点は12個あります。12個とも同じ大きさ(図の中の単位で半径6、1000×1000の舞台)で、同じ墨色です。間隔は全て200でそろっています。点を大きくしたり、間隔を狭めたりすると、全部が同時に見やすくなります。消えるかどうかは、目の良し悪しではなく、図の条件で変わるのです。

この図は「ニニオの消去錯視」と呼ばれます。NinioとStevensが2000年に、ヘルマン格子という古い格子の図の変種として報告しました。

見つめると消える薄い円盤

薄い円盤6枚と真ん中の十字
薄い円盤6枚と真ん中の十字

真ん中の十字を見つめ続けてください。円盤を直接見ないのが大切です。数秒から20秒ほどで、周りの薄い円盤が薄れて消える方が多いはずです。目を動かすと、円盤は戻ってきます。

この場面は静止画です。動画でも、見つめる時間の最初のコマと最後のコマを取り出して比べると、画素は変わっていません。画面は何もしていないのに、見え方だけが変わります。円盤を少しだけ揺らすと、消えにくくなります。

これは「トロクスラー効果」です。スイスの医師Troxlerが1804年に報告しました。円盤は中心から290(図の単位)離れた場所に6枚あり、色は紙より少しだけ暗い値(明るさの差の割合で約18%)に決めてあります。ふちがはっきりした図形より、ふちのぼけた薄い円盤の方が消えやすいのです。

回る十字の中で消える黒い丸

回る十字の群れと黒い丸
回る十字の群れと黒い丸

今度は、はっきりした黒い丸が3つあります。周りでは灰色の小さな十字が108個、等間隔に並んで全体で回っています。真ん中の十字を見つめ続けると、黒い丸が数秒間消えては戻る方が多いはずです。丸は毎コマ、同じ場所に同じ色で描かれています。動いているのは周りの十字だけです。

十字の回転を止めると、丸は見えやすくなります。ただし、見つめ続けると静かな画面でも物が薄れる場合があります。止めればずっと見え続けるとは言い切れません。

これは「運動誘発盲」です。Bonneh、Cooperman、Sagiが2001年にNatureで報告しました。

薄い円盤と濃い円盤を、同時に比べる

薄い円盤と濃い円盤の同時提示
薄い円盤と濃い円盤の同時提示

左に薄い円盤(明るさの差は約18%)、右に濃い円盤(約55%)を、中心から同じ距離・同じ大きさで並べてあります。真ん中の十字を見つめると、片方だけが消える方が多いと思います。ふつうは薄い方が先に消えます。

ここがこの回の山場です。Bonnehたちの2014年の研究は、トロクスラー効果と運動誘発盲を同じ実験で直接比べました。物の濃さを上げていくと、消える「回数」は、トロクスラー効果では減り、運動誘発盲では増えました。回数だけが逆になったのです。一方で、消えていた「時間の割合」は、どちらも濃くすると減りました。2つの指標を混ぜて「消え方が逆になる」と言うと、研究の結果とは違ってしまいます。

なぜそう見えるか

トロクスラー効果:変わらない物への反応が弱まる

説明として有力なのは、変わらない刺激への神経の応答が弱まっていく「順応」と呼ばれる考えです。目が無意識にする小さな動き(マイクロサッカード)が、その薄れを打ち消すことが実験で示されています(Martinez-Condeたち、2006年)。目を動かすと円盤が戻るのは、そのためだと考えられています。ただし、応答が弱まる場所が網膜なのか脳なのかといった細部は、研究が続いています。

運動誘発盲:順応だけでは説明しきれない

運動誘発盲にも順応は関わると考えられています。2014年の直接比較は「両方の現象とも順応に同じように影響されるが、運動誘発盲の消える速さ(回数)には追加の仕組みが関わる」と解釈しました。背景の模様で面が補われる考えや、注意の関わりなど、説明の候補は複数あり、1つの仕組みで決着していません。

ニニオの消去錯視:周辺の区別の粗さ

視野の周りの方では、点とその周りの明るさが溶けて、格子と区別できなくなるという説明が提案されています。ただし、それだけでは説明しきれないと研究者向けの解説も留保しています。こちらも決着していません。

3つを「脳がサボるから」のような一言でまとめることはしません。消える回数の増え方すら逆になる2つがある以上、消える錯覚は1つの仕組みでは括れないのです。

条件を変えるとどうなるか

  • 点を大きくする、間隔を狭める、格子の明るさを変えると、12個の点は全部見えます。
  • 円盤を濃くする、目を動かす、円盤を少し揺らすと、薄い円盤は消えにくくなります。
  • 十字の回転を止めると、運動誘発盲の消失は弱まります。物の濃さを上げると、消える回数はトロクスラー効果では減り、運動誘発盲では増えました(2014年の研究)。消えていた時間の割合は、どちらも減りました。
  • 画面が小さいほど、画面の中心から円盤が離れる角度(専門の言葉では偏心)は小さくなります。この回の設計では、スマホで約3.6度、ノートパソコンで約7.7度、テレビで約6.0度です。全画面で見る方が消えやすいのは、そのためです。

よくある問い

消えないのは異常ですか

異常ではありません。見え方には個人差があり、画面の大きさ、距離、明るさでも変わります。この回の実験は、視力を調べるものではありません。

スマホだと消えにくいのはなぜですか

画面が小さいと、画面の中心から円盤までの見かけの角度(偏心)が小さくなります。視野の中心に近い物ほど消えにくいので、消えやすくするにはこの角度を大きくする必要があります。画面から離れると、画面全体が小さく見えて角度はさらに小さくなるため、離れるのは逆効果です。全画面表示にして図そのものを大きく映すと、同じ距離でも円盤は視野の中で中心から遠い位置に来て、角度が大きくなります。これは設計上の目安で、必ず消える条件ではありません。

3つは同じ仕組みですか

同じとは言えません。濃くした時の消える回数の変化が、トロクスラー効果と運動誘発盲では逆になりました。共通する部分(順応の影響)はあると考えられていますが、運動誘発盲には追加の仕組みが関わるとされ、決着していません。

運転中にも物が消えるのですか

この回では扱いません。実生活への広げ方は研究途上の話題です。歩きながらや運転中にこの実験を試さないでください。

実験台で試せます

この回のページの実験台では、3つの図の条件を変えて、「消えている間ボタンを押し続ける」測定ができます。記録されるのは、消えた回数と消えていた時間の割合の両方です。研究で逆になったのは回数の方ですので、2つを分けて見比べてください。記録はあなたの端末の中だけに残り、外へは送られません。測定は診断ではありません。疲れたら目を離してください。

出典

動画とこのページで使った事実・数字の出どころです。

参考にした文献

  1. Ninio, J. & Stevens, K. A. (2000) Variations on the Hermann grid: an extinction illusion. Perception 29(10):1209–1217
  2. 全部の出典は回のページにあります。Troxler (1804) の報告は Martinez-Conde et al. (2006) Neuron 49:297–305 などで紹介されています。
  3. Martinez-Conde, S. et al. (2006) Microsaccades counteract visual fading during fixation. Neuron 49:297–305

リンク

  1. Bonneh, Y. S., Cooperman, A. & Sagi, D. (2001) Motion-induced blindness in normal observers. Nature 411:798–801nature.com/articles/35081073
  2. Bonneh, Y. S. et al. (2014) Motion-Induced Blindness and Troxler Fading: Common and Different Mechanisms. PLOS ONEjournals.plos.org/plosone/article
  3. Bach, M. Ninio's extinction illusion(研究者による解説と体験ページ)michaelbach.de/ot/lum-NinioDots

声・音・絵

  • 音楽(OpenTracks):「さみしいおばけと東京の月」しゃろう/「日曜の午後」KK。OpenTracks の利用規約に従って使用。
  • 効果音:Kenney「Interface Sounds」(click_001、tick_002、confirmation_001/CC0)https://kenney.nl/assets/interface-sounds 。滑る音「スーッ」と空気の音はプログラムで合成。

ほかの回

錯覚ラボのほかの回

ほかのシリーズの新しい回

YouTube でチャンネル登録する