タメラボ English

もしもを計算してみた#07

もし月が今の半分の距離に来たら? 空の大きさと、その後の軌道を計算してみた|もしもを計算してみた #07

答え

  1. 元の速さで半分の距離に置くと、月は約2.6日後に中心間距離約6.4万kmまで近づきます。
  2. 円を保つ速さに調整した場合は、一周が約9.6日になります。
  3. 半分の距離では、見かけの直径は約2.0倍、月側地表と中心の引かれ方の差は約8.2倍です。

ほかの言い方月が近づいたら月の距離が半分月の軌道と速さ

動画

再生を押すと、YouTube の動画をこのページの中で読み込みます。 YouTube で見る

試す

この回の実験台です。ページの中でそのまま動きます。

大きな画面で開く

解説

月が半分の距離に来たら、何が変わる?

空の月が、今よりずっと大きく見える。そこまでは想像できそうです。では、その月は近い場所を回り続けるのでしょうか。

答えを決めるには、距離のほかに、横へ進む速さも必要です。タメラボでは、地球と月だけの二体モデルを作り、同じ場所から、違う初速度で月を放して計算しました。月を近づける方法の発明ではなく、「配置を変え終えた後」を調べる仮定の実験です。

基準には平均距離の384,400 kmを採用します。「半分」は地球中心から月中心までが192,200 kmという意味です。今夜の実際の月までの距離を半分にしたわけではありません。

先に分かる結果

どちらも、同じ半分の距離から出発します。月の大きさや質量は変えません。

初速度の選び方計算された動き
円を保つ速さ:1.45 km/s距離を保って円を回り、一周は約9.6日
元の速さ:1.02 km/sさらに内側へ入り、約2.6日後に最初の最接近を迎える

後者の最接近距離は、中心どうしで約6.4万kmです。地球の直径を物差しにすると約5個分です。地表と地表の隙間に地球が5個入るという意味ではありません。その後は回り込んで離れ、地球に衝突しません。

空での見かけの直径は、半分の距離に置いた時点で約2.0倍になります。また、月側地表と地球中心の「月に引かれる加速度の差」は約8.2倍になります。後で説明するように、この倍率は海面の高さの倍率ではありません。

何を変え、何をそのままにしたか

位置だけを瞬間的に置き換え、そこから計算を始めます。近づく道中の加速、必要なエネルギー、海への衝撃は扱いません。配置変更の最中まで、エネルギーや角運動量が保存するとはしていません。

出発時は地球から月への方向に直角に進ませ、近づく方向の初速度はゼロです。放した後は、外から支えたり押し続けたりしません。

入力固定した値
基準の中心間距離 D384,400 km
地球のGM398,600.435507 km³/s²
月のGM4,902.800118 km³/s²
地球の平均半径 R6,371.0084 km
月の平均半径 Rm1,737.4 km
1日86,400秒

GMは、質量に万有引力定数を掛けた値です。二つのGMを足したものを、以下ではμと書きます。現実の月の軌道は真円ではありませんが、今回は距離と速さの役割を分けるため、基準を円軌道にそろえました。

空の月の大きさを求める

月の真下の地表に立ち、真上の月を見る条件にします。観測者から月の中心までの距離は、中心間距離rから地球半径Rを引いた r−R です。見かけの直径を角度θで表すと、

θ = 2 asin(Rm/(r−R))

となります。asinは、比から角度を求める逆三角関数です。基準では0.527°、半分では1.071°です。全精度の値どうしを割ると約2.0倍になります。丸めた角度から倍率を作り直してはいません。

同じ画角で見た基準の月と半分の距離の月。直径は約2.0倍。
同じ画角で見た基準の月と半分の距離の月。直径は約2.0倍。

月そのものを拡大したのではなく、見る場所からの距離が短くなっています。直径の倍率と面積の倍率は別です。比較では満月の形と表面の向きを固定し、月相や月の姿勢の予報はしていません。Webで時刻を進めた空の窓も、その瞬間の月の真下から見た大きさであり、一つの街の夜空を追う映像ではありません。

同じ距離でも、軌道が違う理由

月は横へ進みながら、地球へ引かれて内側へ曲がります。その速さと曲がり方が合うと、同じ距離を保った円になります。

地球から月への相対位置をrというベクトルで表すと、使った運動方程式は次のとおりです。

d²r/dt² = −μ r / |r|³

右辺は、二つの天体の相対的な加速度です。画面では地球を中心に置きますが、式には月の質量の効果も入っています。地球を動かない無限に重い物にした計算ではありません。

円を保つ速さ

円に必要な速さは v = √(μ/r) です。基準では1.02 km/sですが、半分の距離では1.45 km/sが必要です。近い場所で円を保つ実験は、位置と一緒に初速度も調整しています。

周期、つまり一周する時間は T = 2π√(r³/μ) です。基準の円は約27.3日、半分の円は約9.6日になります。この周期は、満ち欠けの「ひと月」とは別の量です。

元の速さを保つと

半分の場所に置いても元の1.02 km/sを使うと、その場所で円を保つには速さが足りません。距離が減り、近づくほど速くなって、地球の横を回り込みます。

同じ時計で進む二つの月。元の速さの軌道は内側へ入り、円を保つ軌道から離れる。
同じ時計で進む二つの月。元の速さの軌道は内側へ入り、円を保つ軌道から離れる。

数値計算とは別に、エネルギーと角運動量からも確かめられます。単位質量当たりのエネルギーをε、角運動量の大きさをhとすると、

ε = |v|²/2 − μ/|r|、h = |r×v|

楕円の半長軸aと離心率eは、

a = −μ/(2ε)、e = √(1 + 2εh²/μ²)

です。半長軸は楕円の長い直径の半分、離心率は円からの細長さを表す数です。今回の元の速さでは a = D/3、e = 0.5 となります。最小距離は a(1−e) = D/6 なので、約6.4万kmです。

出発点は楕円で最も遠い位置です。一周が約5.3日なので、その半分後に最初の最接近を迎え、約2.6日後となります。映像の比較では、どちらも同じ時計を使います。スローにする間も両方を同じ割合で遅くしています。

計算をどう確かめたか

4次のRunge–Kutta法で60秒ずつ位置と速度を更新しました。描画用には600秒ごとの状態を保存し、最接近は刻みの中をさらに探しました。カードの値は、等間隔の記録でたまたま最小だった点ではなく、この最接近の出来事の値です。

刻みを半分にした計算、独立したDOP853法、楕円の式と照合しました。主要3ケースの位置の差は0.001 km未満でした。Webで選べる全22条件も照合し、制作時の再実行で企画時の保存データと全部一致しました。これは計算方法の誤差の検証であり、現実を単純にした仮定の誤差がなくなったという意味ではありません。

潮を起こす、引かれ方の差

ここでは月を半分の出発位置に戻します。最接近の瞬間の値ではありません。

月に近い場所ほど、月に強く引かれます。地球中心も引かれますが、月側の地表は少し強く引かれます。共通する分を除いて残る加速度の差を、次の式で求めます。

Δg近(r) = GM月 × {1/(r−R)² − 1/r²}

半分の距離での値を、基準での値で割ると約8.2倍です。このような場所ごとの引かれ方の差が、潮を起こすことにつながります。

なぜ「8倍」ではなく「約8.2倍」?

地球半径が月までの距離に比べて十分小さいとして近似すると、Δg ≈ 2GM月 R/r³ です。この式なら距離半分で8倍になります。今回は地球の有限の半径を入れて差を直接求めたので、約8.2倍になりました。単なる丸め誤差ではありません。遠い側の地表の差も、同じ倍率になるとは限りません。

中心を引く加速度は4.0倍

地球中心を月が引く加速度は GM月/r² です。距離半分で4.0倍になります。これは中心への引力の比較であり、地表と中心の差の約8.2倍とは、比べている量が違います。

海の水位には海底の深さ、海岸の形、水の慣性、摩擦なども関わります。今回の式から「潮位が8.2倍」「海面が何m上がる」とは計算できません。

この結果をどう読めばよいか

大事なのは、「月が近い」という一つの条件だけでは、後の軌道を決められないことです。初速度まで指定すると、同じ出発点から異なる動きが生まれる理由を追えます。

最接近の約6.4万kmは地球中心と月中心の距離です。地表からの高さと取り違えないでください。また、図で天体を見やすく拡大している所でも、距離の目盛りは計算の縮尺です。月が近づいて見える迫力と、実際の距離は分けて読みます。

現実と違うところ

太陽や他の天体、軌道の傾き、地球の扁平な形、海の流れ、天体の変形、潮による長期の変化を省いています。月が壊れるか、地震が起こるか、いつ日食になるかも、この計算からは決めません。

この短い二体計算は、遠い未来の安定性や地球環境の安全性を保証しません。見るのは、定めた条件で放した後の運動と、その距離での幾何学・加速度の比較です。

よくある問い

月は地球へ落ちてくる?

今回の元の速さでは内側へ進みますが、最接近した後、回り込んで離れます。地球表面には達しません。あらゆる初速度で衝突しないという意味ではありません。

潮の高さも約8.2倍?

いいえ。月側地表と中心の、月に引かれる加速度の差の倍率です。実際の海水の運動を計算していないため、潮位の倍率にはできません。

半分なら、いつでも約9.6日で一周?

近い場所で円を保つ初速度を選んだ場合の値です。元の速さでは楕円になり、一周の時間も変わります。

月を近づける方法も計算した?

方法や必要なエネルギーは扱っていません。相対位置を置き換え終えた状態を、実験の出発点にしています。

条件を変えて試す

月の実験を開く。初期値は距離0.50倍・「元の速さ」です。まず再生し、最接近を見たら、同じ距離で「円を保つ速さ」に切り替えてください。次は距離を4分の3に戻して、内側への入り方を予想してみましょう。

選べる距離は0.50〜1.00倍、0.05刻みです。二つの速さの決め方と組み合わせた22条件で試せます。音は最初はありません。詳しい数値や式は折りたたみの中にあり、数式を読まなくても再生できます。結果カードには出発条件も残せて、条件のURLも共有できます。

出典

ほかの回

もしもを計算してみたのほかの回

ほかのシリーズの新しい回

YouTube でチャンネル登録する