地球をつらぬく穴にボールを落としたら、どこへ行く? 中身・自転・空気まで計算してみた |もしもを計算してみた #06
答え
- 東京駅の真下に掘った直径1 mの穴なら、自転のため約13秒で東の壁にぶつかる。
- 自転も空気もなければ、本物の地球の中身で38分11秒で反対側へ着く。
- 地上と同じ濃さの空気を入れた北極の穴では、中心に着くまで約59時間かかる。
ほかの言い方地球の裏まで穴を掘る重力トンネル地球の中心にボールを落とす
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解説
動画の流れ
地球の反対側まで穴を開けて、ボールを落としたら。反対側から飛び出すのでしょうか。それとも、地球の中心で止まるのでしょうか。
この実験では、地球の「中身」「自転」「空気」をひとつずつ本物に近づけます。答えは、そのたびに変わりました。現実には掘れない穴を、計算の中で確かめます。
30秒で分かる結果
| 条件 | 計算の答え | 読むときの注意 |
|---|---|---|
| 中身が一様・自転なし・空気なし | 42分10秒で反対側へ | 地面の高さで止まり、戻る |
| 本物の中身・自転なし・空気なし | 38分11秒で反対側へ | 約4分早くなる |
| 本物の中身・自転あり・東京駅の真下 | 直径1 mなら約13秒で東の壁へ | 深さは約880 m。衝突後は計算しない |
| 北極から南極・地上と同じ濃さの空気 | 約59時間で中心に着く | そこで止まらず、約68時間でゆれが1 m未満になる |
回る地球でボールの通り道に合わせて穴を曲げると、出口は東京駅の真裏から西へ約660 kmずれます。本当の空気のように深いほど濃くなる場合は、もっと手前で浮くと考えられます。温度を一定にしたざっくりした見積もりでは、深さ約50 kmです。

最初に決めた条件
地球は半径6,371 kmの球とし、同じ重さで中身だけが違う二つの地球を比べました。「かんたん」な地球はどこも同じ密度です。「本物」は、地震の波から推定された平均的な地球のモデル、PREMを使います。土地ごとの違いや山、地球のわずかなふくらみまでは入れません。
PREMの密度の表はEarthScope EMC配布の PREM_1s.csv です。1981年のモデルで、取得日は2026年10月22日。式から出した密度を表の199行と比べ、最大の違いは0.000005 g/cm³未満でした。式を積分した地球の重さは約5.9732×10²⁴ kgです。
穴の壁は熱くならず、崩れないことにします。ボールは重さ145 g、直径7.37 cmの野球のボールです。自転も空気もない場合、ボールの重さと大きさは落ちる時間に影響しません。自転があるときはボールの縁が壁に届いた時点で衝突とします。
人類が掘った最深の穴、ロシアのコラ超深度掘削坑は、垂直の深さで12,262 mです。地球の半径の約0.2%にすぎません。斜めに掘った石油の井戸には、穴に沿った長さがこれを超えるものもあります。2008年のカタールの井戸は長さ12,289 m、垂直の深さ1,387 mでした。「長い穴」と「深い穴」は別なのです。
実験1:なぜ、反対側でぴたりと止まる?
球対称の地球では、その場所より外側にある殻の引力が打ち消し合います。中心からの距離を r、その内側の重さを M(r) とすると、重力の加速度は次の式です。
g(r) = G M(r) / r²
G = 6.67430 × 10⁻¹¹ m³ kg⁻¹ s⁻² は万有引力定数です。中身が一様なら、内側の重さは r³ に比例するので、重力は r に比例します。深くなるほど弱くなり、中心ではゼロ。ばねにつないだ物と同じ、一定のリズムで往復する「単振動」になります。
反対側までの時間は π√(R³ / GM)。この実験の半径と重さを入れると2,530.205秒、つまり42分10秒です。数値計算とも一致しました。
中心では重力がゼロでも、速さはゼロではありません。それまでに加速して、秒速約7.9 kmで通り過ぎます。反対側では今度は重力が後ろ向きに働き、地表に届いた瞬間に速さがゼロになります。落とした高さより高く上がるための余分なエネルギーがないので、飛び出しません。

往復は84分20秒です。同じ重さの地球の地面すれすれに円軌道を作れたとすると、人工衛星の1周も同じ時間になります。円運動の位置を穴の線に写した「影」は単振動になり、ボールの位置と重なります。空気や地形を無視した仮の衛星です。現実の国際宇宙ステーションは高度約370〜460 kmを回り、1周は約90分なので、この仮の衛星とは区別します。
実験2:本物の中身なら、約4分早い
地球は中心に向かうほど、同じ大きさで比べた重さ、つまり密度が高くなっています。地面に近い岩は約2.6 g/cm³、中心は約13.1 g/cm³。およそ5倍です。
そのため重力も、一様な地球のようには減りません。深くなるほど強くなる所があり、核とマントルの境目、深さ2,891 kmで地上の約1.09倍になります。そこから中心へ向かうと弱まり、中心ではゼロです。内核と外核の境目とは違う場所です。
この重力で運動方程式を時間ごとに解くと、中心で秒速約9.9 km、反対側まで38分11秒でした。エネルギーから速さを出す v(r)² = 2∫ᵣᴿ g(s) ds と、移動時間を積分する方法でも同じ結果です。
Klotzの2015年の論文も、PREMの場合は38分11秒です。論文の一様な地球の値は42分12秒ですが、地上の重力に9.81 m/s²を使う場合に対応します。この回はPREMの重さから出した約9.82 m/s²を基準にしたため、42分10秒になります。同じといっているのは、PREMの到着時間です。
実験3:地球を回すと、13秒で壁へ
東京駅の地面は、自転によって東へ秒速約380 mで動いています。静かに放したボールも、最初からこの横向きの速さを持っています。一方、穴の深い所は自転の軸に近く、同じ時間に進む円が小さくなります。落ちたボールは壁より東へ進み、ぶつかります。
ここで「真下」は、おもりをつるした向きです。重力と自転の遠心力を合わせた向きに、まっすぐ掘った穴を計算しました。
| 穴の直径 | 東の壁に当たるまで | 深さ |
|---|---|---|
| 1 m | 約13秒 | 約880 m |
| 10 m | 約30秒 | 約4.3 km |
| 100 m | 約64秒 | 約20 km |
手でも確かめられます。短い時間の東へのずれは、おおよそ Ω g cos(緯度) t³ / 3。自転の角速度 Ω = 7.2921150×10⁻⁵ rad/s と東京の緯度を入れ、ボールの中心が約46 cmずれる時刻を求めると約13.37秒です。ボールの半径の分だけ、穴の半径より手前で当たります。
地球の中心へ正確に向けた直線の穴は、おもりをつるした方向と少し違います。この場合は赤道の方へもずれ、直径1 mなら約7.5秒で衝突します。穴の向きの定義を変えるだけでも、答えが変わるのです。
東へずれたのに、なぜ出口は西?
壁をなくして自由な通り道を計算し、その通りに穴を曲げてみました。ボールは中心から約240 kmの所を通り、38分12秒で地表の高さに戻ります。出口は東京の真裏から西へ約660 km。まだ南大西洋で、ブラジルの海岸まで約550 kmあります。
北極の上から見ると、東はどこでも地球が回る向きです。出発点と真裏では、東の矢印が図の上で逆を向きます。ボールは途中で逆向きに戻されたのではなく、まっすぐな穴から最後まで同じ側へずれ続けます。その側が東京では東、真裏では西にあたります。
壁がないとしてもう一度戻ると、東京ではなく黄海へ出ます。76分24秒後、韓国の海岸から約93 kmの海上です。中心を通るまっすぐな穴で、この横ずれを避けられるのは自転の軸、北極と南極を結ぶ穴だけです。
実験4:「中心に着く」と「止まる」は別
北極から南極の穴に空気を入れます。まずは、どこでも海面の標準大気と同じ濃さ、密度1.225 kg/m³としました。抵抗は F = ½ρ Cd A v² です。ρ は空気の密度、A はボールの断面積、Cd は抵抗の大きさを表す係数です。
速いところでは Cd = 0.3。NASA Glennの野球のボールの説明を基準にしました。とても遅くなる中心付近は、速さに比例する粘りの抵抗も扱える球の式、Schiller–Naumannの式と比べて、大きい方を使います。
重力と抵抗がつり合う速さは √(2mg / (ρ Cd A))。地上近くでは時速約150 kmで頭打ちになり、重力の強い深さでは最大約160 km/時になります。どこでも150 km/時、という計算ではありません。
| 出来事 | 落としてから | そのときの動き |
|---|---|---|
| 中心に初めて着く | 約59時間 | 秒速約20 cmで通過 |
| 最初の行き過ぎ | 中心通過のあと | 約70 m先で折り返す |
| ゆれが1 m未満になる | 約68時間 | ここで「止まった」と呼ぶ |
折り返す距離は、約69 → 33 → 20 → 14 → 10 mと小さくなります。59時間は到着時間です。停止時間ではありません。抵抗の係数を0.4、0.5に替えると、中心に着くまでそれぞれ約68.2時間、約76.3時間になりました。空気とボールの扱いに左右される結果です。
本当の空気なら、もっと手前で浮く?
本当は、深い所ほど空気の重みで圧力が増し、空気も濃くなります。温度15℃のままの理想気体とし、dP/dz = ρg を積分すると、深さ約53.2 km、約565気圧で、空気の密度がボールの平均密度に届きます。
どちらも1 cm³あたり約0.69 gです。同じ大きさの空気がボールと同じ重さなら、浮力と重力がつり合います。この見積もりでは、ボールは中心まで沈みません。ただし高い圧力での空気は理想気体からずれ、地下の温度も一定ではありません。ボールはつぶれず、大きさが変わらないとしています。これは浮く深さのざっくりした見積もりで、浮くまでの動きのシミュレーションではありません。
自転も空気も、両方入れると?
空気は地球と一緒に回り、濃さは地上と同じとします。東京駅の真下の穴では、空気で落ちる速さが抑えられて衝突が遅れますが、壁には当たります。
| 穴の直径 | 衝突まで | 深さ |
|---|---|---|
| 1 m | 約28秒 | 約1,060 m |
| 10 m | 約3分54秒 | 約9.8 km |
| 100 m | 約38分 | 約98 km |
「空気があれば、どんな穴でも中心で止まる」という答えにはなりません。Webでもこの全部入りの条件を計算できます。空気ありと曲げた穴の組み合わせだけは選べません。曲げた穴を、空気がないときの通り道に合わせて定義しているためです。
現実とは、どこが違う?
実験からの見積もりでは、内核と外核の境目の温度は約5,000〜6,000℃です。ESRFの研究紹介では、純粋な鉄の見積もりは6,230 ± 500 K、軽い元素を考慮した値は約5,500 K。後者には誤差の幅が明記されていません。「地球の中心を直接測って6,000℃だった」という意味ではありません。
PREMから計算した中心の圧力は約364 GPa、地上の約360万気圧です。熱さと圧力のため、この穴は掘れず、壁を保つこともできません。
地球を球にしたことによる時間の違いは、Klotzの論文では約10秒と見積もられています。ボールが壁に当たった後の転がりや摩擦、月や太陽の引力も扱っていません。時間の刻みを3通りに替えて、画面に出す丸めた値が全部同じになることは確かめましたが、現実の再現を保証するものではありません。
よくある問い
反対側から飛び出さないの?
静かに放す設定では、出発した高さより高くは上がれません。空気と自転がなければ反対側の地面で止まり、戻ります。落とす前に押す実験はしていません。
中心では、ボールの重さはどうなる?
球対称な地球の中心では、重力の引っぱりが打ち消し合ってゼロです。質量がなくなるわけではありません。空気がなければ中心を最速で通過し、空気の実験では中心付近がいちばん遅くなります。
東京の真裏はブラジル?
東京駅の真裏は南大西洋の海上です。最も近い陸はブラジルで、海岸まで約1,100 kmあります。一方、沖縄の那覇の真裏はブラジルの陸です。
斜めの穴でも、同じ時間?
自転と空気がなく、穴の中を摩擦なしですべる設定です。一様な地球ならどの2地点でも42分10秒。本物の中身では、東京から大阪は42分10秒、東京からニューヨークは40分12秒になります。近い街どうしでは、密度の高い深い所を通らないためです。
この問いを、最初に考えたのは誰?
この問いの最初の人を特定したわけではありません。物理の雑誌にはCooperの1966年の論文「Through the Earth in Forty Minutes」があり、Klotzは2015年に一様でない地球の計算を発表しています。Cooperの本文は未確認なので、ここでは題名と刊行年だけを紹介します。
自分の街から、もう一度
地球つらぬきシミュレーターで試す。最初は本物の中身・自転なし・空気なしです。結果カードの「自転を入れて、もう一度落とす」を押すと、直径1 mの真下の穴で、壁までのカウントダウンに進みます。
真裏が陸になる街、自転していても壁に当たらない穴、二つの街を結ぶ斜めの穴も探してみてください。結果は画像として保存でき、条件入りのURLでも共有できます。計算は端末の中で行います。
出典
動画とこのページで使った事実・数字の出どころです。
- EarthScope EMCのPREM配布データ(。1981年モデル、2026年10月22日取得。密度の表と多項式を使用)data.earthscope.org/archive/seismology/products/emc/data/PR…
- Natural Earth(。10mの陸・海岸線・国・都市データ。陸海の判定と海岸までの距離に使用。パブリックドメイン)naturalearthdata.com
- NASA Earth Observatory: Blue Marble, Next Generation(。2004年7月の地表画像。地球儀の表面に使用)earthobservatory.nasa.gov/features/BlueMarble
- Klotz, The Gravity Tunnel in a Non-Uniform Earth(, American Journal of Physics 83, 231 (2015)。PREMでの到着時間、斜めの穴、球近似の影響)arxiv.org/abs/1308.1342
- Cooper, Through the Earth in Forty Minutes(, American Journal of Physics 34, 68–70 (1966)。題名と刊行年のみ)doi.org/10.1119/1.1972773
- NASA Earth Fact Sheet(。半径、地上の重力、恒星日の長さ。自転角速度は)nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/factsheet/earthfact.html
- IERS定数(の7.2921150×10⁻⁵ rad/s。NASAの23.9345時間からも一致を確認)hpiers.obspm.fr/eop-pc/models/constants.html
- CODATA: 万有引力定数(。2018年の推奨値を使用)physics.nist.gov/cgi-bin/cuu/Value
- NASA Glenn: Drag on a Baseball(。球の大きさ、抵抗の式、野球のボールの抵抗係数。遅い領域はSchiller–Naumannの球の式 Cd=24/Re×(1+0.15Re^0.687) と比較)www1.grc.nasa.gov/beginners-guide-to-aeronautics/drag-on-…
- 日本野球機構:統一試合球の基準(。ボールの重さと周囲の範囲)npb.jp/npb/20150203release.html
- U.S. Standard Atmosphere 1976の表(。海面・15℃の密度と粘り)engineeringtoolbox.com/standard-atmosphere-d_604.html
- ESRF:地球内部の温度の実験esrf.fr/home/UsersAndScience/Publications/Highl…
- 2013年のお知らせ(。内核境界の温度の見積もり)esrf.fr/news/general/Earth-Center-Hotter
- NASA: International Space Stationnasa.gov/reference/international-space-station
- Facts and Figures(。高さと周回時間)nasa.gov/international-space-station/space-stati…
- Kola Superdeep Borehole(。垂直の深さ、年、斜めの石油井戸との違い)en.wikipedia.org/wiki/Kola_Superdeep_Borehole
声・音・絵
- 声:Irodori-TTS(日本語・シリーズ指定の声)、Kokoro am_puck(英語)。
- Music (OpenTracks): “Shall we meet?” by MATSU
- Music (OpenTracks): “楽しく軽快に” by yuki
- Music (OpenTracks): “突破口の手がかり的なBGM” by 鷹尾まさき
- Music (OpenTracks): “考え中” by 鷹尾まさき
- 効果音:タメラボ自作の合成音。岩の衝突音:Kenney Impact Sounds, CC0 (https://kenney.nl/assets/impact-sounds)。
