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もしもを計算してみた#05

日本全国民が同時にトイレを流したら? 先に限界になるのはどこか計算してみた|もしもを計算してみた #05

答え

  1. 先に限界になるのは、家の近くの細い管(枝管)です。10秒以内の一斉で限界の4.4倍になりました。
  2. 完全同時でも処理場は想定の59%でした。波は太い管へ進むほど弱まります。
  3. この模型では、流す時刻を約1分半に広げると枝管は限界の内側に収まります。

ほかの言い方みんなで一斉にトイレを流すトイレ一斉フラッシュスーパーフラッシュ下水があふれるか

動画

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解説

30秒で分かる結果

先に限界になるのは、一番大きな施設(処理場)ではありません。家の近くの細い管(枝管)です。

人口10万人の模型の街で計算すると、全世帯が10秒以内に流した場合、枝管の流れは限界の4.4倍になり、約39秒のあいだ満杯になりました。完全に同じ瞬間に流すと12倍です。一方、処理場への流入は、ふだんの排水を合わせても、もともと想定している量の59%にとどまりました。波は太い管へ進むほど弱まるからです。

この模型では、流す時刻を約1分半に広げると、枝管は限界の内側(0.87倍)に収まります。水道側では、タンクが約75秒かけてゆっくり補給することが緩衝材になっていて、配水池の水は1.8%しか減りませんでした。

前提(条件とデータ)

計算は2層に分けています。混ぜないことが大事です。

  • A. 街の模型: 人口10万人の模型都市で、管の階層ごとに「流れ/限界」を計算します。「どこが先に限界か」という結論はこちらから出します。
  • B. 全国の概算: 全国で流れる水の総量だけを見ます。全国の管の計算はしません(地域ごとに違うため)。

仮定した条件

前提値根拠・条件
1回の洗浄水量6リットル(代表値)現在の節水型は大洗浄で約4.8〜6リットル、旧型は約13リットルです。混在を代表して6リットルと置き、13リットルは参考計算を別に回しました(出典の節)
タンクが空になる時間6秒排水の波形を三角形(ピークは平均の2倍)と置くための代表値です
タンク補給の時間75秒(4.8リットル/分)ボールタップで絞られる補給の代表値です。ここが給水側の緩衝になります
水道直結式の瞬時給水18リットル/分「内蔵タンクを使わず、水道から直接引く方式」だけを仮定した代表値です。内蔵タンクとポンプを使うタンクレス方式には当てはまりません
模型都市人口10万人、1世帯2.2人、約45,454世帯トイレは1世帯1台と置きます。同時に流せるのは人の数ではなくトイレの台数です
計画1人1日最大給水量300リットル/人/日水道計画で使う代表的な範囲(おおむね250〜350リットル)の中間です。通常時の時間最大は平均流量の3倍と置きました
全国の世帯数5,570万世帯2020年国勢調査の一般世帯数(約5,570万5千世帯)に合わせた概数です。全国概算の結論は5,000万〜6,000万世帯の範囲で変わりません

管の階層

下水は「家の近くの細い管(枝管、200世帯)→ 少し太い管(準幹線、2,000世帯)→ 集まった先の太い管(幹線、10,000世帯)→ 処理場」と集まっていきます。給水も「給水枝管(200世帯)→ 配水支管(2,000世帯)→ 配水本管(10,000世帯)→ 配水池」という階層で見ました。

計算の式

下水管の限界(マニング式)

円い管が満杯のとき流せる流量は、マニング式で求めます。

Q = (1/n) × A × R^(2/3) × √S

  • Q: 流量(m³/秒)
  • n: 粗度係数(管の内側の荒さ。0.013)
  • A: 管の断面積(π×D²/4、Dは管の直径)
  • R: 径深(満管では D/4)
  • S: 勾配(下りの傾き)

この式で、枝管(直径250mm、勾配3‰)は32.6リットル/秒、準幹線(600mm、1.5‰)は237.8リットル/秒、幹線(1,000mm、1‰)は758.2リットル/秒が限界になります。

波の流し方(貯留ルーティング)

1世帯の排水は、6リットルが6秒で流れる三角形の波形としました。これに、もともと流れている生活排水(1日平均流量)を足します。

管に入った水は「限界の流量で頭打ちになる貯留」として流します。入りが限界を超えた分は管の中にたまり(満杯)、あとから少しずつ流れます。上位の管へは、子管ごとに到達の遅れ(距離÷流速1m/秒)を付けて合計します。管の長さが違うため到着時刻がばらけ、波が低く広がっていきます。これが「波が途中で弱まる」理由です。

給水側

タンク補給は75秒の箱型(一定の速さ)、水道直結式(内蔵タンクなしと仮定)は20秒の箱型として、トイレの補給だけの需要を合計し、通常の時間最大や流速2m/秒の目安と比べました。水圧そのものは計算していません。配水池は「計画1日最大の12時間分」(1,500万リットル)を代表の貯水量として、総補給量と比べました。

計算プログラムは企画の段階で回したものを作る段階でも回し直し、全ての値が一致することを確かめています。Web版は同じ式をJavaScriptに移植し、実験1〜3の倍率が小数第2位まで一致することを確かめました。

結果の読み方

見る場所実験1 CM休憩(3分・2割)実験2 10秒以内(全世帯)実験3 完全同時(全世帯)
下水・枝管 流れ/限界0.21倍4.4倍(約39秒満杯)12倍
下水・準幹線0.11倍0.33倍0.41倍
下水・幹線0.13倍0.26倍0.25倍
処理場への流入(想定の時間最大に対して)37%57%59%(ピークは約37分後)
給水・補給だけの需要(通常の時間最大に対して)0.4倍3.5倍3.5倍
給水・全戸が水道直結式と仮定0.5倍13倍13倍
配水池の減少0.36%1.8%1.8%

読み方の要点は3つです。

  1. 細い管ほど余裕が小さいので、先に限界になります。枝管1本は200世帯ぶんの排水を受けますが、その限界に対して同時に流す波は大きすぎます。
  2. 太い管と処理場は平気です。到着時刻のばらつきで波が弱まるため、処理場のピークは約37分遅れて、想定の59%までしか上がりません。なお、この59%にはふだんの排水(それだけで想定の約33%)も含まれていて、今回の波の上乗せは約26ポイントです。
  3. 水道側は「需要は跳ねるが、水はなくならない」です。補給だけの需要は通常の3.5倍になりますが、配水池は1.8%しか減りません。タンクの遅い補給が街を守っています。

ずれの境い目(全世帯・枝管)は、0秒で12倍、10秒で4.4倍、30秒で2.0倍、60秒で1.13倍(まだ限界超え)、90秒で0.87倍、180秒で0.58倍でした。

全国の概算では、5,570万世帯×6リットルで約33万m³(25mプール約835個分、1個400m³として)になります。「1人が1日に300リットル使うと仮定した全国の給水量」と比べると約0.9%です。量としては小さいのに、短時間に集中する速さが問題になる、という対比がこの回の芯です。

参考として、旧型13リットルで10秒以内に流すと枝管は9.5倍(満杯は約83秒)、処理場は想定の74%でした。やはり細い管が先です。排水時間を4秒にすると実験2の枝管は5.25倍、8秒にすると3.92倍となり、「細い管が先に限界」という順序は変わりませんでした。

集合住宅(100戸)の排水立て管だけを別に計算すると、完全同時のピークは許容量の目安(直径100mmで4リットル/秒)の50倍でした。これは建物の中だけの別計算です。

現実とはどこが違うか

  • 模型都市は実在の街ではありません。管の太さ・勾配・世帯数は代表値です。実在の街では数値は変わりますが、「細い管が先」という順序は、枝管の余裕が幹線より小さい限り保たれると考えられます。
  • 雨水は入れていません。合流式下水道の地域で雨の日なら、余裕はさらに小さくなります。
  • 枝管が満杯になったときの実際の現れ方は、計算では「満杯の持続時間」までしか言えません。水が噴き出すとは断定せず、「流れにくくなり、家の中で低い所の排水口では逆流のおそれ」と言います。
  • 給水側の水圧低下の大きさは計算していません。そのため「洗浄が弱まる」「補給が何秒遅くなる」とは言いません。言えるのは需要の倍率と配水池の減少までで、水圧や洗浄への影響は今回の計算では分かりません。
  • 生活排水は1日平均で一定と置きました。夕方の忙しい時間帯に重なれば、処理場の割合はもう少し上がります。
  • ポンプ場や浄水場の制御、受水槽を持つ建物の緩衝は入れていません。受水槽のある建物は給水側の影響を受けにくい方向に働きます。

よくある問い

本当にマンホールから水が噴き出しますか?

今回の計算で言えるのは、細い管が「満杯になる時間」までです。実験2では約39秒でした。その間、近くの家では水が流れにくくなり、地下の浴室や洗面台など低い所の排水口では逆流のおそれが出てきます。マンホールから噴き出すかどうかは、地形や管のつながりで変わるため、この計算では断定しません。

雨の日だったらどうなりますか?

雨水と汚水を同じ管で流す合流式下水道の地域では、雨の日はもともと管に余裕が少ないため、同じ一斉フラッシュでも満杯になりやすくなると考えられます。今回の計算には雨水を入れていないので、数値は出しません。分流式の地域では雨水は別の管を流れるため、この影響は小さくなります。

自分の街でも同じですか?

この計算は代表値で組み立てた模型の街の話です。実際の街では管の太さや勾配、1本の管が受け持つ世帯数が違うため、倍率の数値は変わります。ただし「家の近くの細い管ほど余裕が小さく、先に限界になる」という順序は、多くの街で成り立つと考えられます。

実際に「一斉に流す」ようなことは起きていますか?

大きなスポーツ中継の休憩時間に水の使用量が増えることは、実際に観測されています。たとえば米国ではスーパーボウルのハーフタイムに水使用の増減が話題になり、ニューヨーク市環境保護局が発表しています。ただし条件が違うため、今回の計算の数値とは比べていません。

Webで試す

この回のWebページでは、街の大きさ、トイレの種類、流す時刻のずれ、流す割合を変えて、同じ計算を自分の手で試せます。「全世帯でも平気になるずれ」を見つけることが一番の遊びどころです。

ショート

出典

動画とこのページで使った事実・数字の出どころです。

参考にした文献

  1. 計算の前提と式は回のページにまとめています(洗浄水量6リットル、補給75秒、管の限界はマニング式の満管流量)。
  2. 世帯数: 総務省統計局「令和2年国勢調査」一般世帯数(約5,570万5千世帯)。全国概算では5,570万世帯と置きました(2026-10-18確認)。
  3. 計算プログラム: この回の作業フォルダの calc/sim.py(乱数の種 20261018 固定)。企画段と作る段で結果の全一致を確認済み。

リンク

  1. 実在の一斉事例: ニューヨーク市環境保護局(NYC DEP)「DEP Ready to Tackle Super Bowl Super Flush」 (数値は比べず、観測事実だけを引用)。nyc.gov/site/dep/news/25-006/dep-ready-tackle-s…
  2. 洗浄水量: メーカー公表値。現在の節水型の大洗浄は約4.8〜6リットル、旧型は約13リットルという範囲を代表値の根拠にしました。TOTO 商品情報jp.toto.com/products/toilet
  3. タンクレスの方式の違い: 内蔵タンクにためてポンプで勢いをつける方式があること。TOTO の解説note.jp.toto.com/n/n19854f8d86ad
  4. マニング式: 標準的なマニング公式ja.wikipedia.org/wiki/マニング公式
  5. 集合住宅の排水立て管: 器具単位(fixture unit)の考え方に基づく許容流量の目安en.wikipedia.org/wiki/Fixture_unit

声・音・絵

  • BGM(OpenTracks): 「楽しく軽快に」yuki/「考え中」鷹尾まさき/「突破口の手がかり的なBGM」鷹尾まさき/「Shall we meet?」MATSU
  • 声: 日本語 Irodori-TTS(タメラボ選定の声)

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