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錯覚ラボ#08

目で見た奥行きは、どこまで信用できる?|錯覚ラボ #08

種明かし

  1. 出っぱり・手前・高さが見えても、今回の絵だけでは奥行きは1つに決まりません。
  2. 光の前提や慣れ・注意が関わると考えられていますが、仕組みは研究の途中です。
  3. 丸を回し、四角を重ね、輪を横から見ると、絵の事実を確かめられます。

ほかの言い方クレーター錯視ネッカーの立方体ステレオキネティック効果奥行きの錯覚

動画

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解説

出っぱって見えた丸が、板を逆さにするとへこみに見える。線だけの箱は、眺めているうちに手前と奥が入れ替わる。回る輪には、描いていない高さまで見えてきます。

今回の3つの図で確かめるのは、平らな絵だけでは、奥行きが1つに決まらないということです。図の計算で保証できる事実と、なぜそう見えるかという研究の考えを分けて見ていきます。見え方には個人差があり、同じ体験をしなくても異常という意味にはなりません。

濃淡の丸:出っぱりとへこみは同じ絵

灰色の板に、向きの違う濃淡の丸が9つ並ぶ
灰色の板に、向きの違う濃淡の丸が9つ並ぶ

まず、出っぱって見える丸を決めてから、実験台の「板を逆さにする」を押してみてください。明るい側が上の丸は出っぱり、下の丸はへこみに見える人が多いようです。板を回すと、その読み方が入れ替わることがあります。

この図の9つの丸は、同じ1つの丸を使っています。上が明るい丸が6つ、下が明るい丸が3つです。中身を描きかえる処理はなく、後者は前者を180度回した物です。灰色の板も含めて回せば、丸と板の関係は保たれます。

逆さの板で、丸の写しと上下の色の値を確かめる
逆さの板で、丸の写しと上下の色の値を確かめる

青い破線は丸の写しです。180度回して隣へ動かすと、輪郭だけでなく濃淡も重なります。上と下の読み取り点の色は、赤・緑・青の順に (220, 219, 215) と (59, 61, 67)。隣の丸では上下が逆になるだけです。値は圧縮前の同じ画像から読み、動画の圧縮後の誤差は別に確かめています。

画面の色の値は0が黒、255が白です。丸の中は、紙の色から墨の色へ、色の値が一直線に変わっています。板はその中間の灰色で、丸の平均の色とほぼ同じです。立体の模型を照らした写真を使っているわけではありません。

光は上から来る、という前提

これは「クレーター錯視」と呼ばれる目の錯覚です。英語でも crater illusion と呼ばれます。北岡明佳氏は、逆さにすると凸と凹が入れ替わって見える現象として説明しています。濃淡の丸の形を使う代表的な研究は、ラマチャンドランの1988年の論文です。

同じ濃淡は「上から照らした出っぱり」とも「下から照らしたへこみ」とも読めます。その時、見る側が光は上から来るという前提を使っているらしい、というのが研究の考えです。ただし、向きや強さを一律には決められません。

研究調べたこと分かったこと・限界
Sun & Perona 1998好まれる光の向き真上より左に寄るという報告。全員に固定された向きという意味ではない
Mamassian & Goutcher 2001浮き彫りの帯の形の判断20人中、立体に見えた16人の平均は約26度左。今回の丸とは刺激が違う
Morgenstern ほか 2011周囲の光の手がかりとの関係上からの光という前提は弱く、わずかな別の手がかりで上書きされうる
Adams ほか 2004触って確かめる経験光の前提が経験で変わるという報告。ここでは角度の細かな数字は使わない

「光は必ず左上からだと知っている」と断言できる結果ではありません。実験台の測定も、その条件での答えから作る目安です。

横向きにすると? 首を傾けると?

明るい側を横へ回した時、丸はどう見えるでしょうか。Kleffner & Ramachandran(1992)は、上下の濃淡が異なる丸は、たくさんの丸の中からすぐ見つかる一方、左右の濃淡の違いではそうならないと報告しました。これは探す速さの研究です。横向きの丸1つの見え方を決める研究としては扱いません。

光の「上」が何を基準にするかも研究されています。Howard ほか(1990)は主に頭を基準にする結果を、Adams(2008)は主に網膜を基準にしつつ体の傾きを一部補正する結果を報告しました。首を少し傾けて測り直すと、結果が動くかもしれません。必ず変わるという約束ではありません。

顕微鏡やレンズの筒で見た、昔の報告

Brewster(1826)の歴史的な紹介には、王立協会で金貨を複合顕微鏡で見ると顔がへこんで見えた話や、Gmelinが1744年に印章を光学の筒で見ると、深く彫った所が出っぱって見えると報告した話があります。

Rittenhouseの1786年刊の論文には、凸レンズを入れた筒でレンガの敷石を見た話があり、像が上下逆になって光の当たり方が逆に見えるためだと説明されています。これらは顕微鏡やレンズの筒で見た時の話です。今回のように板を逆さにする実演の報告と混同しないようにします。

ネッカーの立方体:2つの立方体が入った1つの絵

線12本のネッカーの立方体
線12本のネッカーの立方体

左下の四角と右上の四角の、どちらが手前に見えますか。眺めていると手前と奥が入れ替わることがあります。画面は静止していて、線は動きません。

この図は、同じ大きさの四角2つを斜めにずらし、対応する角を結んだ12本の線です。近くの本物の箱なら手前の面の方が大きく見えますが、この図にはその遠近の手がかりがありません。

青い写しを平行移動すると、同じ大きさの四角が重なる
青い写しを平行移動すると、同じ大きさの四角が重なる
隠れる3本を別々に消した2つの読み方
隠れる3本を別々に消した2つの読み方

左下が手前の箱として読んだ時に隠れる3本と、右上が手前の時に隠れる3本は別です。それぞれを消した絵を重ねると、元の線が戻ります。「3本消せば必ずその向きに見える」とは言いません。ここで確かめたのは、どちらの立体も同じ線の絵を作れることです。

名前の由来は、1832年にこの見え方を報告したルイ・アルベール・ネッカーです。ジュネーブの鉱物学者だった彼が描いた原図は、厳密には菱形の面を持つ結晶の図でした。片目でも起き、見つめる角を変えると手前と奥を切り替えられると書いています。彼のピント合わせによる説明は、当時の本人の考えです。

入れ替わらなくても普通です

Kornmeier & Bach(2012)の総説では、ただ眺めている時の切り替わりは平均5〜6秒ですが、個人差も同じ人の中での変動も大きいとされています。今回の動画は、入れ替わる可能性を先に伝えてから約10秒眺める構成にしました。

別の見え方を知らない人では切り替わりが少ない、という研究もあります。Girgus ほか(1977)で「30秒で20人中11人が入れ替わらなかった」という数字は、つぼと顔の図の結果です。同じ数字をそのままネッカーの立方体の割合として使うことはできません。

見つめ方や意志で変わるのか

見つめた所が手前に見えやすいという傾向は、小さいものです。Toppino(2003)では、小さな立方体を使うと見つめる位置の効果が消えた実験もあります。一方、ある見え方を保とうとする意志は、その見え方の時間を延ばしました。ただし、切り替わり自体を避けることはできませんでした。

上から見下ろす読み方が多めという研究はありますが、Meng & Tong(2004)にはほぼ半々の結果もあります。見つめ方や課題の違いを無視して「人は必ずこちらを見る」とは言えません。仕組みについては、慣れのような感覚の働きと注意のような働きの両方が関わると考えられていますが、決着はしていません。

回る輪:高さは絵に描いていない

中心をずらした6つの輪
中心をずらした6つの輪

輪を回すと、円すいが飛び出したり、トンネルがへこんだりして見えることがあります。平らなままに見える人もいます。回る図を見て気分が悪くなったら、目を離して止めてください。

この「ステレオキネティック効果」は、ベヌッシが名付け、弟子のムサッティが1924年に報告しました。ベヌッシが気づいた年は、ここでは特定しません。

この図で最も外の輪は動きません。内側の輪ほど中心が大きな円を描きますが、輪自体の半径は一定です。輪に模様がないので、輪に沿って回る動きは見分けられません。止めると、ただの平らな輪が残ります。

平ら・円すい・トンネルの候補が、同じ正面の動きになる
平ら・円すい・トンネルの候補が、同じ正面の動きになる

横から見た候補には、平らな輪、円すい、へこんだトンネルを用意しました。それぞれを画面に垂直な軸のまわりに回し、正面へまっすぐ写すと、画面上の動きは一致します。計算では低い円すいも含めた4つの候補を、8秒間の全コマで確かめました。残った差は計算の丸めだけです。

これは平行な写し方の話です。遠くの物を小さく描く遠近の写し方とは違います。この図の計算例では、見る位置までの距離を図の中で2000とした遠近の写し方なら、円すいの最も小さい輪は約1.3倍になります。「どんなカメラでも同じ」という主張ではありません。

それでも、高さが見える

Caudek & Proffitt(1993)は、輪の縮みがないこの動きからは、奥行きの量が幾何学的に決まらないと説明しました。それでも、Proffitt ほか(1992)の結果は、見える高さが底の幅の約0.7〜1.2倍と紹介されています。

全員が同じ高さを見るという意味ではありません。Wallach & Centrella(1990)では大きな個人差があり、Xing & Liu(2026)は、同じ人の中ではそろっていても測り方で値がずれることを報告しました。今回の高さ合わせも、その条件での見え方の記録です。

また、この図を、軸が首を振る普通の円すいとして読むなら、高さが底の幅と同じ時、外の輪は約1.8%つぶれた楕円に写るはずです。実際の輪は真円のままです。奥行きが見えることと、正しい立体の投影図であることは別だと分かります。

なぜ、その高さなのか

動きの差を小さくする形が選ばれるという考え方があります。下の灰色の矢印は、画面内の回転を点で追った時の速さを表す説明図です。矢印が長いほど速く、回転の中心から離れた点ほど速くなります。輪にこの印は実際には描いていません。

画面内の回転を点で追った時の速さを、灰色の矢印の長さで示す説明図
画面内の回転を点で追った時の速さを、灰色の矢印の長さで示す説明図

Zanforlin(1988)の考えを式にしたのがBeghi ほか(1991)のモデルです。Liu(2003)は、そのモデルでは説明できない現象があると指摘し、Masini ほか(1994)も最小化の考えと合わない結果を報告しました。高さを決める仕組みは、まだ決着していません。

美術でも回転と奥行きは使われ、デュシャンは1935年に「ロトレリーフ」を作りました。ここでは作品の図版は使わず、独自に計算した輪だけを描いています。

なぜ平らな絵に奥行きが見えるのか

計算で確かめられたのは、今回の絵が複数の立体に対応するという事実です。見る側がどれを選ぶかについては、光の前提、慣れ、注意などが研究されています。その強さや結果は条件によって変わり、全てを1つの仕組みで説明できたわけではありません。

「同じ丸だ」と確かめた後でも、出っぱりが見えることがあります。これは、全ての仕組みを知ったという意味ではありません。図の事実を知ることと、その場での見え方は分けて扱えます。

よくある問い

出っぱりとへこみが逆に見えるのは異常ですか

見え方には個人差や条件の差があります。この実験の答えから、視力・健康・性格・知能を判断することはできません。

スマホを逆さにすると変わりますか

画面の自動回転を止めて逆さに持つと、目に映る向きは板を逆さにした時と同じになります。見え方が変わるか、無理のない姿勢で試せます。

ネッカーの立方体が入れ替わらないのはなぜですか

切り替わるまでの時間には大きな差があります。別の見え方を知ることや見つめる場所が関わるという研究はありますが、必ず起きるわけではありません。

3Dメガネがなくても立体に見えるのはなぜですか

濃淡や動きも奥行きの手がかりになります。今回の現象は片目でも起き、左右の目の映像の違いだけに頼るものではありません。

円すいの本当の高さはいくつですか

この絵だけでは決まりません。平行に正面へ写す条件なら、高さの違う候補も、平らな輪も同じ動きを作れます。

実験台で試す

この回の実験台では、光の向きを36問でまとめたり、立方体が手前に見えた時間を押して記録したり、見えた高さを3回合わせたりできます。途中結果は出さず、決めた回数を終えてから結果を出します。

光の向きは答えを向きの矢印として足した目安です。そろい方が0.30未満なら、向きを1つに決めません。計算で試した目安では、同じ人でも測るたびに10〜30度ほど変わることがあります。首を少し傾ける、濃さの差を半分にするなど、条件を1つ変えて前の記録と比べてみてください。

記録は端末の中だけに残り、外へ送信しません。共有リンクに含めるのは図の設定だけです。どの測定も視力の診断ではなく、見え方の優劣を決める物でもありません。

素材と制作

図・計算・アニメーションはタメラボによる自作です。動画と実験台で同じ描画コードを使用しました。書体はIBM Plex Sans JP、IBM Plex Sans、Inter(SIL Open Font License)。動画の音声・音楽・効果音の詳細は説明欄とクレジットに記載しています。

出典

動画とこのページで使った事実・数字の出どころです。

参考にした文献

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リンク

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声・音・絵

  • 音楽(OpenTracks):「さみしいおばけと東京の月」しゃろう/「日曜の午後」KK
  • 効果音:Kenney Interface Sounds(CC0)、タメラボによる合成音

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