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しくみの中身#07

急ブレーキでは開かないエアバッグは、なぜ衝突で開く?|しくみの中身 #07

答え

  1. センサーが動きの変化を測り、開くかどうかは制御装置が決めます。
  2. 制御装置は減速の強さ・向き・時間とともにどう変わるかを、車ごとの条件と照らし合わせます。
  3. センサーは車の前のほうと制御装置の中にあり、急ブレーキでもふつう前席の袋は開きません。

ほかの言い方エアバッグ 仕組みエアバッグ 開く条件エアバッグ センサー急ブレーキ エアバッグ

動画

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解説

急ブレーキではふつう開かないのに、強い衝突では開く。前席のエアバッグは、この二つをどう見分けているのでしょう。この記事では、加速度センサーと電子制御装置を使うフロントエアバッグの典型的な構成を、図で読み直します。

なお、ここで示す内部の図はすべて、この回のために作った立体の模式図です(動画と同じ模型です)。部品の位置、個数、作動条件は車種や方式によって異なります。特定の車が「何キロで開くか」をこの記事から判断することはできません。

30秒で分かる、エアバッグが開くまで

流れは、大きく分けて6つです。

  1. 車体各部と制御装置の中のセンサーが、車の動きの変化を測ります。
  2. 測定値は電気信号として制御装置に入ります。
  3. 制御装置が、強さ・向き・時間の変わり方などから展開するかどうかを判断します。
  4. 展開すると決めた場合だけ、作動指令がハンドルの中のガス発生装置に届きます。
  5. 発生したガスで、折りたたまれた布の袋が開きます。
  6. 体を受け止めた袋は、ガスを逃がしながらしぼみます。

ポイントは、「センサーが測り、制御装置が決める」という役割分担です。センサーが自分で袋を開くわけではありません。

車体の中のセンサーと制御装置の関係を示す模式図
車体の中のセンサーと制御装置の関係を示す模式図

エアバッグは、何を測っている?

エアバッグの装置が測っているのは、車の速さそのものではありません。測っているのは加速度、つまり速さや進む向きがどのように変わるかです。前へ走る車では、おもに減速の変わり方として現れます。

急ブレーキでも車は減速します。強い衝突でも車は減速します。どちらも「急に止まる」動きですが、その変わり方は同じではありません。エアバッグの装置は、この変わり方の違いを手がかりにします。

チップの中の、おもりとばね

加速度センサーは、小さなチップの中に機械の構造を作った部品です。チップの中に小さな機械を作る技術はMEMS(メムス)と呼ばれ、スマートフォンの動きを測るセンサーにも使われる種類の技術です。ただし、スマホ用と車用で同じ部品が使われているという意味ではありません。

この記事で拡大するのは、静電容量式と呼ばれる方式の例です。チップの外側の枠は車体に固定されています。枠の中には、ばねで支えられた小さなおもりがあります。

車が急に減速すると、枠は車と一緒に減速します。一方おもりは、枠に対して少しずれます。ずれたおもりは、ばねに引かれて元の位置へ戻ります。図では、ずれが目で追えるように大きく誇張しています。実物の動きの大きさではありません。

ばねで支えられたおもりと枠を示す模式図
ばねで支えられたおもりと枠を示す模式図

大事なのは、おもりが動けばいつでも袋が開くわけではない、という点です。急ブレーキでもおもりは動きますが、そのずれは小さく、ゆっくりです。強い衝突のずれは、ずっと大きく、一瞬で起こります。判断に使われるのは、このずれの大きさと変わり方です。

触れない電極から、電気信号を取り出す

おもりの端には、くしの歯のような形の電極が付いています。向かい側には、枠に固定された電極があります。おもりがずれると、二つの電極の間隔が変わります。狭くなる側と、広くなる側が出てきます。

電極同士は触れ合いません。接触してスイッチが入る仕組みではないのです。

では、触れないのにどうやって読むのでしょう。電極の間隔が変わると、同じ電圧でも電極にためられる電荷の量が変わります。この「電気のたまりやすさ」を静電容量(せいでんようりょう)と呼びます。間隔が狭いほど、ためられる電荷は増えます。センサーの回路は、この変わり方を読み取って、測定値として送り出します。

つまり、チップの中の小さな機械のずれが、電気の信号に置き換わっているわけです。

固定電極と動く電極の隙間が変わる模式図
固定電極と動く電極の隙間が変わる模式図

開くかどうかは、制御装置が判断する

測定値は、車の真ん中あたりにある制御装置に入ります。センサーは車体の各部にあるだけでなく、制御装置の中にも入っている構成があります。「センサーと制御装置は必ず別の箱」というわけではありません。

制御装置は、入ってくる測定値から、衝突の強さや向き、時間の変わり方などを読みます。そして、車ごとに設定された条件に照らして、保護装置を作動させるかどうかを判断します。メーカーの説明では、ブレーキや軽い接触、縁石への接触などと、重大な衝突とを区別する例が紹介されています。

制御装置と内蔵センサーを示す模式図
制御装置と内蔵センサーを示す模式図

急ブレーキとの違いは、山の高さひとつではない

動画の中では、測定値の変わり方を波の形のイメージで比べました。あの波形は実際の測定データではありません。また、「波の山がこの線を越えたら開く」という単純な一本の境界で決まる、という説明でもありません。

実際の判断では、衝突の波形を処理しながら、変化している途中の測定値を読みます。衝突が最後まで終わるのを待ってから考えるのでは、間に合いません。

一例として、Boschの紹介では、センサーのデータを10ミリ秒(0.01秒)で解釈するという説明があります。これは同社の信号解釈の説明例であり、すべての車で「衝突から膨張完了まで10ミリ秒」という意味ではありません。メーカーや作動例ごとに、測っている区間も起点も異なります。

ハンドルの中で、袋はどう開く?

制御装置が展開を決めると、作動指令がハンドルの中のガス発生装置(インフレーター)に届きます。点火装置を介した化学反応でガスが発生し、そのガスが折りたたまれた布の袋に入ります。

袋は、周りの空気を吸い込んで膨らむのではありません。また、膨らんだ袋が最初からハンドルの中に隠れているのでもありません。普段は薄く折りたたまれた布が、発生したガスだけで一気にほどけるのです。ハンドル中央のふたは開いて、袋の通り道を作ります。動画では細かい動きを見せるために時間を大きく引き伸ばしましたが、実際にはほんの一瞬の出来事です。

収納された袋が開いて体を受け止める模式図
収納された袋が開いて体を受け止める模式図

ガスを逃がすところまでが、働きの一部

袋の仕事は、大きく膨らむことだけではありません。体が袋に触れると、袋の表面がへこみ、中のガスが排気口などから逃げていきます。ガスが逃げることで、体が強く跳ね返されることがやわらぎます。

排気の仕方やタイミングには方式の違いがあります。排気口の位置や大きさをすべての車で同じに描くことはできません。上の図の排気口の場所と形は模式的なものです。

なぜ、すべての衝突で開くわけではない?

エアバッグは、すべての衝突で展開する装置ではありません。展開するかどうかには、衝突の方向、相手が動くか変形するか、システムの設計、センサーの位置など、多くの条件が関係します。

たとえば、車両の下部が固いものに当たるような場合に作動することもあります。逆に、衝突しても展開しない条件もあります。「下から当たれば必ず開く」「この速度なら必ず開く」という一つの規則にはなりません。

正面からの衝撃と下からの衝撃の向きを示す模式図
正面からの衝撃と下からの衝撃の向きを示す模式図

そのため、実際の事故でエアバッグが開かなかった場合に、それが正常な条件だったのか、故障だったのかを、この記事や動画だけで判断することはできません。個別の車の判断は、その車の説明書と販売店などの確認が必要です。

そして何より、エアバッグはシートベルトを補助する装置です。正式名称のSRSは「補助拘束装置」という意味で、ベルトを正しく着けることが前提になっています。

よくある問い

急ブレーキだけで開きますか?

ふつう、急ブレーキだけでフロントエアバッグを展開させる設計ではありません。急ブレーキでもセンサーは減速を測りますが、制御装置が展開指令を出す条件とは別です。ただし、車体下部への強い衝撃など、衝突以外の条件で作動する場合があることは、車の説明書にも書かれています。

何km/hで開きますか?

すべての車と衝突を一つの速度で表すことはできません。作動は車速だけで決まらず、衝突の方向、相手の動きや変形、システムの設計などで変わります。そのため、この記事では「作動速度の表」は作りません。

一つのセンサーがスイッチを押すのですか?

いいえ。この記事で扱った方式では、センサーは動きの変化を電気信号に変える役目で、開くかどうかを決めるのは制御装置です。制御装置の中にも加速度センサーがある構成があります。センサーの数や置き場所は車種によって異なります。

開いたあと、なぜしぼむのですか?

ガスを逃がすことで、体を受け止めたときの反発をやわらげるためです。排気の方法やタイミングには方式の違いがあります。しぼむのは故障ではなく、働きの一部です。

エアバッグがあれば、ベルトは要りませんか?

要ります。エアバッグはベルトを補助する装置で、ベルトと組み合わせて使うことが前提です。ベルトをしていない場合の保護を、エアバッグだけで置き換えることはできません。

膨らむ時に見える白いものは何?

膨張のときに粉が舞うことがあり、白いモヤのように見える場合があります。Hondaの説明書では「粉が舞うことがある」、トヨタの説明書では作動時の「白いガス」と表現されています。確認した資料には、すべての方式に共通する成分の説明はないため、この記事では特定の成分名は挙げません。また、毎回必ず白いものが出るとも限りません。Hondaの説明には、一時的に不快に感じる場合があることや、安全を確認したうえで車外に出る案内も書かれています。なお、動画の中でガスの流れを示した色付きの線は説明用の図示で、この白いものの再現ではありません。

出典

動画とこのページで使った事実・数字の出どころです。

  1. Bosch Mobility「Occupant protection system」(年記載なし) ――周辺センサーと制御装置で衝突の強さ・向きを検出し、保護装置を作動させる構成を確認しました。bosch-mobility.com/en/solutions/passive-safety/occupant-pr…
  2. Bosch Mobility「Peripheral acceleration sensor」(年記載なし) ――ばねで支えたおもりとくし状電極、距離と静電容量の変化、信号処理の流れを確認しました。bosch-mobility.com/en/solutions/sensors/peripheral-acceler…
  3. 富士通テン(現デンソーテン)「軽自動車向けエアバッグシステムの開発」富士通テン技報 Vol.33 No.1(2015年) ――加速度情報による衝突判別と、車両ごとの判定値の考え方を確認しました。denso-ten.com/jp/technicalreview/jp_pdf/61/61-6.pdf
  4. Bosch Mobility「Groundbreaking passenger protection: 40 years ago, Bosch launched the electronic airbag control unit」(2020年) ――制御装置の内外のセンサー信号による判断と、10ミリ秒という信号解釈の説明例を確認しました。bosch-mobility.com/en/company/current-news/groundbreaking-…
  5. Bosch Semiconductors「SMA760」(年記載なし) ――エアバッグ制御装置の中の中央センサーという用途例を確認しました。bosch-semiconductors.com/products/mems-sensors/safety-systems/sm…
  6. 米国NHTSA「Air Bags」(更新年記載なし) ――ガス発生装置の働き、ベルトとの組み合わせ、すべての衝突で展開するわけではないことを確認しました。nhtsa.gov/vehicle-safety/air-bags
  7. Honda「エアバッグシステム」(年記載なし) ――膨張、衝撃の吸収、ガス排出の流れを確認しました。global.honda/jp/tech/Airbag_system/detail-03
  8. 本田技術研究所・長井誠ほか「運転席用i-SRSエアバッグシステム連続容量変化タイプの紹介」Honda R&D Technical Review 21(2)(2009年) ――排気の仕方やタイミングに方式の違いがあることを確認しました。jstage.jst.go.jp/article/hondatechnicalreview/21/2/21_20…
  9. トヨタ「AQUA 2026.07〜 取扱説明書:SRSエアバッグ」(2026年) ――車両下部からの衝撃で作動する場合や、ベルト着用の前提を確認しました。一車種の説明書のため、ここにある条件をすべての車の条件としては扱っていません。manual.toyota.jp/aqua/3133/hev/ja_JP/contents/caf1767950…
  10. Honda「FREED 2026年 Web取扱説明書:エアバッグについて」(2026年) ――膨張時に粉が舞うことがある説明を確認しました。honda.co.jp/ownersmanual/webom/jpn/freed/2026/detai…
  11. 村田製作所「Basic knowledge of MEMS Technology」(年記載なし)murata.com/products/sensor/library/mems-basic
  12. および福井村田製作所「薄くなるのに静電容量が増えるのはなぜ?」(2013年公開、2026年更新)article.murata.com/ja-jp/article/why-capacitance-increase-…
  13. Bosch Sensortec「Motion sensors」(年記載なし) ――加速度センサー(accelerometer)がスマートフォンにも使われていることを確認しました。bosch-sensortec.com/en/products/motion-sensors
  14. 米国NHTSA「Light Vehicle Antilock Brake Systems Research Program Task 5, Part 1」(2000年) ――ABSが車輪のロックを防ぎ、急ブレーキ中の操舵性を保つ働きを確認しました(動画の車輪の描写の根拠です)。nhtsa.gov/sites/nhtsa.gov/files/abs51ids.pdf

声・音・絵

  • 声:Irodori-TTS(日本語)/ Kokoro(英語)
  • 音楽(OpenTracks):「なんでしょう?」KK、「ちょっと楽しい」天野 七祈、「探偵推理中」田中芳典、「ensolarado」Kyaai
  • 音楽:「shuffle_shuffle」KK、「昼下がり気分」KK

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