自販機はニセ金を、なぜ見抜ける? |しくみの中身 #01
答え
- 機械の中の「3つの関所」——形・材質・照合——で調べるので、ニセ金は一瞬で返ってきます。
- 合金には「電気的な指紋」(渦電流)があるため、材質のちがいを見分けられます。
- 紙幣は「光」と「磁気」で読まれ、25年以上前には500ウォン硬貨が機械を騙した事件もありました。
動画
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解説
動画の流れ
ニセ硬貨を入れると、一瞬で返ってくる。本物は通る。その分かれ目は、機械の中の「3つの関所」で決まっています。この記事では、硬貨と紙幣が自販機の中で通る関所を、動画の図を使ってたどります。
▶ 動画を見る(約8分24秒): youtube.com/watch
自販機に硬貨を入れてから飲み物が出てくるまでは、あっという間です。けれどその短いあいだに、硬貨は「形」「材質」「本物の記録との照合」という3つの関所を通っています。どの関所で、何を調べているのか。順番に見ていきましょう。
※この記事の機械の中の図は、よくある構成を分かりやすく描いた模式図です。実際の構造は機種によって違います。
1. 自販機は「3階建て」――真ん中に関所がある
自動販売機の中を、3階建てのビルにたとえてみます。上の階に商品、下の階にお釣りの在庫、そして真ん中の階に、お金を調べる「関所」があります。

日本にある飲料の自販機は 2,178,800台(2025年12月末。日本自動販売システム機械工業会の調べ)。自販機全体では 2,585,200台 です。
これを日本の総人口 1億2298万人(2026年1月1日現在。総務省統計局「人口推計」の確定値)で割ると、
- 飲料の自販機は 約56人に1台(2,178,800台 ÷ 1億2298万人 = 56.44人に1台)
- 自販機全体では 約48人に1台(2,585,200台 ÷ 1億2298万人 = 47.57人に1台)
になります(台数は2025年12月末、人口は2026年1月1日現在で、ほぼ同じ時点どうしの比較です)。お金を入れて買う自販機には、この「関所」が入っています。
2. 関所①「形」: 10円玉のほうが100円玉より大きい?
業界団体の説明によると、自販機の硬貨選別装置は、硬貨の「材質、直径、厚み、重さなどを総合的に検知」しています。1つめの関所では、硬貨がレールを転がるあいだに、直径・厚さ・重さを調べます。

日本の硬貨の規格は次のとおりです。
| 硬貨 | 直径 | 重さ | 材質 |
|---|---|---|---|
| 1円 | 20mm | 1g | アルミニウム |
| 5円 | 22mm | 3.75g | 黄銅 |
| 10円 | 23.5mm | 4.5g | 青銅 |
| 50円 | 21mm | 4g | 白銅 |
| 100円 | 22.6mm | 4.8g | 白銅 |
| 500円(現行) | 26.5mm | 7.1g | バイカラー・クラッド(全体で銅75%・亜鉛12.5%・ニッケル12.5%) |
出典: Wikipedia「日本の硬貨」の規格表
注目は10円玉と100円玉です。10円玉は 23.5mm、100円玉は 22.6mm。10円玉のほうが、ほんの少し大きいのです。大きさと値段は一致しません。
しかも硬貨は、使い込むほど少しずつすり減ります。形だけで、毎日たくさんの硬貨を間違いなく仕分けし続けるのは難しい。そこで硬貨は、次の関所へ進みます。
3. 関所②「材質」: 合金の「電気的な指紋」とは(渦電流)
2つめの関所は、一見すると何もない細いトンネルです。けれど壁の中にはコイルが巻かれていて、変化する磁場を作っています。
金属がこの磁場の中を通ると、金属の中にうずを巻くような電気の流れが生まれます。これが 渦電流(うずでんりゅう) です。渦電流の流れ方は、合金の成分によって変わります。電気の通しやすさ(導電率)や、磁石へのなじみやすさ(透磁率)が、金属ごとに違うからです。その結果、コイルの信号は硬貨ごとに違う形になり、機械はそれを記憶している本物のデータと照らし合わせます。まるで、電気で読む「合金の指紋」です。複数の周波数の渦電流を使って硬貨を見分ける技術は、特許(米国特許 US7537099B2)にもなっています。

今の500円玉は「サンドイッチ」
2021年に登場した今の500円玉は、外周の輪と中心の円板で金属が違う バイカラー・クラッド 構造です。外周の輪はニッケル黄銅、中心の円板は白銅で銅を挟んだ 3層 になっています。

この重ね方も、まねしにくくする工夫のひとつです。今の500円玉にはほかにも、角度を変えると「500YEN」「JAPAN」の文字が見える潜像、微細文字、流通硬貨への採用は世界初とされる異形斜めギザ、公表されていないマイクロ文字などの偽造防止の工夫が使われています。
4. 25年以上前、「双子の硬貨」に騙された日(500ウォン事件)
なぜ自販機の関所は、ここまで厳しいのでしょうか。きっかけは、25年以上前の出来事にあります。

- 1982年4月1日 初代の500円玉が発行される(白銅・26.5mm・7.2g)。同じ1982年から作られた韓国の500ウォン硬貨は、直径26.5mm・白銅で、規格がほぼ同じでした。
- 1998年以降 500ウォンの価値は約50円。500円の 約10分の1 です。
- 1999年 手を加えられた(変造された)500ウォン硬貨が、いちばん多いこの年に国内で 821,654枚 見つかる。識別センサーの精度向上などの対策も行われましたが、うまくいきませんでした。
- 2000年8月1日 500円玉を、ニッケル黄銅の硬貨に緊急に作り変え。その後、自販機やATMの入れ替えもあって、白銅貨に似せた変造硬貨は次第に減っていきました。
- 2021年11月1日 今のバイカラー・クラッドの500円玉が登場。
今の関所は、こうした攻防の上にあるのです。
5. 偽物を入れると、どうなる?
3つめの関所では、読み取った「指紋」を本物の記録と照らし合わせます。合格した硬貨には、電磁石で動く門が開き、硬貨は下の階へ落ちていきます。入れた硬貨が、次の誰かのお釣りになるかもしれません。
指紋が合わなければ、機械はそれをお金として扱いません。門は開かず、硬貨は別の通路を通って返却口から戻ってきます。自販機の中に、確認している人はいません。すべて自動で判定しています。

ちなみに、すり減ったり汚れたりした本物の硬貨が、間違って弾かれることもあります。
6. 紙幣の関所: 「光」と「磁気」で読まれる
お札の場合も、関所の考え方は同じです。業界団体の説明によると、紙幣識別装置は、入れられたお札の 磁気的・光学的な特性 を検知し、あらかじめ登録された本物の紙幣データと照合しています。
- 光: 紙を透かして、すかしや模様などの特徴を確かめます。
- 磁気: お札のインクには磁気を帯びる材料が含まれていて、額面ごとに決まった磁気の模様があります。機械はそれを読み取ります。
- 照合: 読み取ったものが本物の記録と一致すれば受け入れ、ずれていればその場で戻します。

7. 新紙幣で、多くの自販機に「頭の手術」が必要になった
2024年7月3日、新しいお札(F号券)が発行されました。1万円札は渋沢栄一(裏は東京駅)、5千円札は津田梅子(裏は藤)、1千円札は北里柴三郎(裏は葛飾北斎「神奈川沖浪裏」)です。ひとつ前のお札(E号券)は2004年11月1日の発行なので、約20年ぶりの新しいお札です。なお、E号券も引き続き使えます。

新しいお札には、肖像が回転して見える 3Dホログラム(紙幣への採用は世界初)や、高精細なすき入れ、パールインク、特殊発光インクなどが使われています。ホログラムは、人が目で見て本物かどうかを確かめるための偽造防止の工夫です。一方、機械は登録された本物のデータと照らし合わせて判定するので、新しいお札を受け付けるには、そのデータに対応させる必要がありました。
業界団体の調べでは、発行の時点(6月末時点。たばこの自販機なども含む)で新紙幣に対応していた自販機は 約3割 でした(日本経済新聞 2024年7月4日付)。
8. まとめ: 1枚図でおさらい

- 関所①形: 直径・厚さ・重さを調べる。ただし大きさと値段は一致せず、硬貨はすり減る。
- 関所②材質: コイルの磁場で渦電流を起こし、合金ごとに違う信号=「電気の指紋」を読む。
- 関所③照合: 読んだ指紋を本物の記録と見比べ、合えば門が開き、合わなければ返却口へ。
お札は「光」と「磁気」で読み、本物の記録と照らし合わせます。
▶ 動画で見る(3D断面図で関所を丸ごと見る): youtube.com/watch / ショート「500円玉は、なぜサンドイッチ?」: youtube.com/shorts/BgRcW17uqb4
9. よくある質問(FAQ)
Q. すり減った硬貨が弾かれたのはなぜ?A. すり減りや汚れで、本物の硬貨でも、記録されている本物のデータとのずれが大きくなることがあるためです。摩耗したり汚れたりした本物が、誤って弾かれることもあります。
Q. ニセ硬貨は没収される?A. この記事の模式図のしくみでは、門が開かないまま別の通路を通り、返却口に戻ってきます(実際の動きは機種によって違います)。
Q. 旧500円玉・旧お札は使える?A. お金としては、どちらも今も有効です(法律上使えます)。ただし最初の500円玉(1982年発行の白銅貨)は、自販機などの精度の向上や入れ替えで、自販機では使えないことが増えています。
ショート
出典
動画とこのページで使った事実・数字の出どころです。
参考にした文献
- 日本自動販売システム機械工業会(設置台数・真偽判定のしくみ)
- Wikipedia「日本の硬貨」「五百円硬貨」(硬貨の規格・500円玉の歴史)
- 米国特許 US7537099B2(渦電流による硬貨の識別)
リンク
- 日本自動販売システム機械工業会「設置台数データ(2025年12月末)」jvma.or.jp/information/information_3.html
- 日本自動販売システム機械工業会「よくあるご質問(お札やコインの本物・偽物の見分け方)」jvma.or.jp/information/information_5.html
- Wikipedia「日本の硬貨」(硬貨の規格表)ja.wikipedia.org/wiki/日本の硬貨
- Wikipedia「五百円硬貨」(500円玉の変遷・500ウォン硬貨問題・古い500円玉の扱い)ja.wikipedia.org/wiki/五百円硬貨
- Worldwide Vending "Detecting Fake Coins: The Mechanisms Inside Vending Machines"worldwidevending.com.au/2024/09/05/detecting-fake-coins-the-mec…
- 米国特許 US7537099B2 "Coin discriminator"(複数周波数の渦電流による硬貨判別)patents.google.com/patent/US7537099B2/en
- Apex Magnets "Vending Machines & Magnets Deliver Favorite Treats"apexmagnets.com/news-how-tos/vending-machines-magnets-d…
- Wikipedia「千円紙幣」(F千円札・3Dホログラムの世界初表現)ja.wikipedia.org/wiki/千円紙幣
- Wikipedia「日本銀行券」(F号券・E号券の発行日、F号券の肖像、E号券の効力)ja.wikipedia.org/wiki/日本銀行券
- 日本経済新聞 2024年7月4日付「自販機、新紙幣使えない!? 切り替え3割どまり」nikkei.com/article/DGKKZO81837310T00C24A7TB1000
- 総務省統計局「人口推計」2026年6月報(2026年1月1日現在の確定値。「約48人に1台」「約56人に1台」の計算の人口)stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202606.pdf
声・音・絵
- BGM: OpenTracks(KK「なんでしょう?」/天野 七祈「ちょっと楽しい」/田中芳典「探偵推理中」/Kyaai「ensolarado」)
