お金と制度

住民税の申告が要らない人は、条文に書いてありますただし「年金だけ」「収入なし」は市区町村で違います

2026-09-15 ・ 読了目安 9分

住民税の申告が要らない人は、条文に書いてあります|ただし「年金だけ」「収入なし」は市区町村で違います

住民税の申告をしなくていい人は、法律の本文に書かれています。 地方税法第317条の2第1項のただし書がそれで、名指しされているのは「勤務先から市区町村へ給与支払報告書が出ていて、給与以外の所得が無かった人」です。会社員が毎年何もしないで済んでいるのは、慣習ではなく条文です。

ただし、ここから先が厄介です。同じ条文の末尾が、残りの判断を市区町村の条例に預けています。 そのせいで「年金だけの人」「収入が無かった人」の扱いは、住んでいる市区町村で実際に食い違います。

先に3つ。

  • 給与だけの人は、法律の本文で申告不要です。 地方税法317条の2第1項ただし書。全国どこでも同じです。
  • 確定申告をした人も不要です。 317条の3が「確定申告書が提出された日に(住民税の)申告書が提出されたものとみなす」と書いています。二重に出す必要はありません。
  • ただし「不要な人」でも、4つの控除を受けたいなら申告が要ります。 同じ条文の第3項に、雑損控除・医療費控除・純損失等の控除・寄附金税額控除が名指しで並んでいます。

条文はこう書かれています

まず原則から。地方税法317条の2第1項の本体は、出すほうが原則です。

第二百九十四条第一項第一号に掲げる者は、三月十五日までに、…申告書を賦課期日現在における住所所在地の市町村長に提出しなければならない。

そのうえで、ただし書が例外を作ります。長い条文なので、関係するところだけ引きます。

ただし、第三百十七条の六第一項又は第四項の規定により給与支払報告書又は公的年金等支払報告書を提出する義務がある者から一月一日現在において…給与…又は…公的年金等…の支払を受けている者で前年中において給与所得以外の所得又は公的年金等に係る所得以外の所得を有しなかつたもの…については、この限りでない。

「この限りでない」=出さなくてよい、です。条件は2つに分かれます。

条件条文のどこ
勤務先(または年金の支払者)が、市区町村へ報告書を出す義務があること317条の6第1項・第4項
本人に、給与以外(年金だけの人は年金以外)の所得が無かったこと317条の2第1項ただし書

報告書を出すのは勤務先で、あなたではありません。 1月1日時点で給与を払っていて所得税を源泉徴収する義務がある事業者は、1月31日までに給与支払報告書を市区町村へ出さなければならない、と317条の6第1項が定めています。あなたの代わりに勤務先が出しているから、あなたが出さなくてよい——これが仕組みです。

「副業が20万円以下」は、住民税の話ではありません

ここが、いちばん取り違えられている箇所です。

ただし書の条件は「給与所得以外の所得を有しなかつた」です。金額の下限は書かれていません。 20万円という数字は条文のどこにも出てきません。

20万円が出てくるのは所得税のほうです。中野区のページは、両方を並べてこう書いています。

なお、B社からの給与収入が20万円以下の場合、所得税の確定申告は必要ありません。

所得税の確定申告が要らないことと、住民税の申告が要らないことは、別の条文で決まっています。 そして住民税のただし書には金額の線がありません。確定申告をしていれば317条の3のみなし規定で住民税の申告も済みますが、確定申告をしなかった場合は、みなす対象そのものがありません。

迷ったら、自分の市区町村の税務担当に聞くのが確実です。 この記事は条文の構造を示すもので、個別の判断はできません。

「出さなくていい人」に残っている4つの例外

317条の2第3項は、ただし書で免除された人を名指しで呼び戻します。

…雑損控除額若しくは医療費控除額の控除、…純損失の金額の控除、同条第九項に規定する純損失若しくは雑損失の金額の控除又は寄附金税額控除額の控除を受けようとする場合には、三月十五日までに、…申告書を、…市町村長に提出しなければならない。

受けたい控除申告
雑損控除(災害・盗難など)要る
医療費控除要る
純損失・雑損失の繰越要る
寄附金税額控除(ふるさと納税など)要る
生命保険料控除・地震保険料控除・扶養控除など年末調整で入っていれば不要

分かれ目は「年末調整で入れられるかどうか」です。 年末調整に欄がある控除は勤務先経由で市区町村へ届きます。欄が無い4つは、自分で出す以外に届ける道がありません。

ふるさと納税のワンストップ特例は、この4つ目を申告なしで済ませるための仕組みです。地方税法の附則第7条にあり、寄附を受けた自治体の長から住所地の市区町村長へ「申告特例通知書」が送られる、という形で書かれています。あなたの代わりに自治体間で書類が動くわけです。

ただし条文には条件が2つあります。 1つは、確定申告書や住民税の申告書を出す必要が無いと見込まれる人であること。もう1つは、寄附先の自治体の数が5以下と見込まれる場合に限ることです。6か所目からはこの仕組みに乗りません。ワンストップ特例を使っていないなら、寄附金税額控除は申告の側です。

同じ「年金だけ」でも、市区町村で答えが違います

条文の第1項は、ただし書の最後にもう1つ例外を置いています。

並びに所得割の納税義務を負わないと認められる者のうち当該市町村の条例で定めるものについては、この限りでない。

「当該市町村の条例で定めるもの」。 ここが条例に預けられているので、全国一律の答えは存在しません。実際に4つの市区のページを開いて、書いてあることをそのまま並べます。

市区町村給与だけ年金だけ収入が無かった
世田谷区(2026年3月13日更新)給与支払報告書が出ていれば不要「年金収入のみの方」は不要「申告の義務はありません」+国保などのため申告をお願い
墨田区(2026年3月23日更新)給与支払報告書があれば不要年金支払報告書があれば不要記載なし
中野区(2024年5月7日更新)給与支払報告書が出ていれば不要年金だけなら不要(年金以外の所得があるときは必要と明記)「税証明書、国民健康保険料…などの基礎資料」として案内
鹿児島市(2026年1月22日更新)給与支払報告書が出ていれば不要65歳以上で支給合計151万5千円以下のときだけ不要預貯金・遺族年金などで生活していた人は必要(市内の親族の扶養に入っていた人を除く)

同じ「年金だけで暮らしている人」が、世田谷区では不要、鹿児島市では年齢と金額の条件つきです。 これは片方が間違っているのではなく、条文が条例に預けた部分だからです。

鹿児島市の原文を引きます。

前年中の所得が公的年金等(遺族年金・障害年金等を除く)のみの65歳以上(昭和36年1月1日以前生まれ)の人で、支給合計額が151万5千円以下の人

世田谷区は同じ欄をこう書いています。

年金収入のみの方

この2行が、この記事で言いたいことの全部です。 「住民税 申告 不要」で検索して出てくる説明が自分に当てはまるとは限らないのは、説明が雑だからではなく、制度がそう作られているからです。

非課税であることと、申告が要らないことは別です

もう1つ、混ざりやすい線を引きます。住民税がかからないこと(非課税)と、申告しなくていいことは、別の条文です。

非課税のほうは295条です。

一 生活保護法の規定による生活扶助を受けている者

二 障害者、未成年者、寡婦又はひとり親(これらの者の前年の合計所得金額が百三十五万円を超える場合を除く。)

さらに第3項が、均等割についても条例で定める金額以下の人には課税できないとしています。ここにも「条例で定める」が出てきます。

非課税でも、申告を求められることはあります。 世田谷区は、義務は無いと書いたうえで、続けてこう書いています。

下記の要件に該当する場合は、国民健康保険料の軽減措置や各種サービスを受けるための資格審査の資料となるため、申告をお願いします。

挙がっているのは、国民健康保険・介護保険・後期高齢者医療制度・国民年金の加入者とその世帯主、各種児童手当の受給者、就学援助や補装具費などのサービスを受けている人、課税(非課税)証明書が必要な人です。

「義務が無い」と「出さないほうが得」は違います。 所得が申告されていないと、市区町村側には「収入ゼロ」ではなく「不明」として残ります。国民健康保険料の軽減は所得が分かっていることが前提なので、出さなかったために軽減が受けられない、という向きに効きます。

それで、あなたは何をすればいいのか

あなたの状況やること
会社員で、給与以外の所得が無かった何もしなくてよい年末調整で完結)
確定申告をする/した何もしなくてよい(317条の3でみなし)
医療費控除・ふるさと納税・雑損控除を受けたい住民税の申告か、確定申告
給与以外の所得があった確定申告をしないなら、住民税の申告
年金だけ/収入が無かった自分の市区町村のページを見る(全国一律ではない)
非課税だが国保・児童手当・就学援助などに関係する義務は無くても出しておく

住宅ローン控除のように、所得税の側で手続きが終わっていれば住民税にも自動で届く仕組みもあります。住民税だけ別に何かをする場面は、実はそれほど多くありません。

自分の市区町村を調べるときの探し方

自治体のページは名前が揃っていません。「住民税」で探すより、正式名称で探すほうが速いです。

探す語出てくるページ
市民税・県民税 申告市の場合の正式名称
特別区民税・都民税 申告東京23区の正式名称
町民税・県民税 申告町村の場合
申告が不要な人だいたいこの見出しで一覧になっている

開いたら「申告が不要な人」の欄だけを読めば足ります。 4つの市区を見た限り、どこも同じ位置に同じ見出しで置いていました。

出典

根拠どこ
申告義務とただし書、条例への委任地方税法 第317条の2
確定申告書を出せば申告したものとみなす地方税法 第317条の3
給与支払報告書の提出義務(1月31日まで)地方税法 第317条の6
非課税の範囲地方税法 第295条
各市区の運用世田谷区・墨田区・中野区・鹿児島市の各ページ

条文は e-Gov 法令検索の地方税法(昭和二十五年法律第二百二十六号)から引いています。市区町村のページは更新日を併記しました。 条例は毎年動くので、古い更新日のページは、当年分として確かめ直してください。

この記事は令和8年度分(令和7年中の所得)の申告を前提にしています。 申告期限は自治体の案内で3月16日(月曜日)とされています。