赤い蝋燭と人魚(小川未明) 町は、なぜ亡びた? |5分でわかる名作 #20
この話の要点
- 人魚の母が、人間はいちばんやさしいと聞き、子を人間の町に託そうとする話です。
- 娘の絵の蝋燭が海の守りと評判になる一方、娘は香具師に売られ、赤い蝋燭が残ります。
- 町はなぜ亡びたのか。本文は理由を書かず、読む人に問いを残します。
ほかの言い方赤い蝋燭と人魚 あらすじ赤いろうそくと人魚 要約小川未明 赤い蝋燭と人魚 結末
動画
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解説
動画の流れ
動画では、母の3本の蝋燭が赤く染まるまでを絵で見られます。この記事では、話の全体と、本文の言葉を数えた結果をまとめます。事実は、青空文庫の本文(作品ID 54372)だけを根拠にします。
30秒で分かるあらすじ
北の海に棲む人魚は、人間はいちばんやさしいと聞き、生まれる子を人間の町で育ててもらおうと、陸へ向かいます。海辺の町で蝋燭屋の老夫婦に拾われた娘は、白い蝋燭に赤い絵具で魚や貝を描き、その燃えさしを持てば海で災難にあわないと評判になります。けれど、娘のことを思う人はだれもいませんでした。大金と「人魚は不吉」という言葉に負けた老夫婦は、娘を香具師に売ります。娘が連れ去られた後のある晩、髪の濡れた女が赤い蝋燭を買って行き、その夜、海は大あらしになりました。
登場人物
- 人魚の母:北の海に棲む人魚。身ごもっていて、子を陸で産もうと、神社の灯の見える方へ泳ぎます(一章)。
- 娘:石段の下で拾われた女の子。胴から下は魚の形をしています。本文は「黒眼勝な美しい、頭髪の色のツヤツヤとした、おとなしい怜悧な子」と書きます(二章)。
- お爺さん・お婆さん:お宮の山の下の蝋燭屋の老夫婦。お爺さんが蝋燭を造り、お婆さんが店で売ります。赤ん坊を「神様のお授け」として育てます(二章)。
- 香具師:南の国から来た旅の商人。珍しいものを見世物にして金を儲けようと、人魚を大金で買おうとします(四章)。
- 色の白い女:真夜中に蝋燭を買いに来る女。「長い黒い頭髪が、びっしょりと濡れて月に光って」います(五章)。だれなのか、本文は書きません。
章ごとのあらすじ
この話は、1921年2月16日から20日まで「東京朝日新聞」に発表されました。本文は一から五までの5つの章で、どの章も1,300字前後です(ルビと空白を除いて数えました)。
一章
北の海は青く、月の晩に女の人魚が岩の上で休んでいます。人魚は身ごもっていて、「人間というものは、この世界の中で一番やさしいものだと聞いている」と思っています。かわいそうな者をいじめず、一度手に取ったものは捨てないとも聞いています。二度と子の顔を見られなくてもよいから、この子だけは陸で産みたい。そう決めた人魚は、遠くの神社の灯の方へ泳いでいきます。
二章
海岸の小さな町。お宮の山の下に蝋燭屋があり、老夫婦が暮らしています。月のいい晩、お詣りの帰りに、お婆さんは石段の下で泣いている赤ん坊を見つけます。「このままに見捨て行っては神様の罰が当る」と心の中で言って、抱いて帰ります。赤ん坊は女の子で、胴から下は魚の形でした。夫婦は「神様のお授け」として、大事に育てます。
三章
娘は姿を恥じて人の前に出ませんが、ある時、白い蝋燭に赤い絵具で魚や貝や海草を描き始めます。絵の蝋燭はよく売れ、「その燃えさしを身に付けて海に出れば、どんな大暴風雨の日でも災難がない」と噂が立ちます。遠くの船乗りまで来て、お宮の灯は夜も昼も絶えず、山は名高くなります。娘は手の痛いのを我慢して描き続けます。けれど本文は書きます。「誰も、蝋燭に一心を籠めて絵を描いている娘のことを思う者はなかったのです。従ってその娘を可哀そうに思った人はなかったのであります。」
四章
南の国から香具師が来て、大金で人魚を売ってくれと言います。夫婦は「神様のお授けだから、そんなことをしたら罰が当る」と断りますが、「昔から人魚は、不吉なものとしてある」と言われて信じ、大金に心を奪われて売る約束をしてしまいます。娘は泣いて「どんなにも働きますから」と頼みますが、「鬼のような心持になってしまった年より夫婦」は聞き入れません。香具師が、虎や獅子を入れたことのある鉄格子の箱を車に乗せて来た夜、せき立てられた娘は、手の蝋燭をみんな赤く塗ってしまいます。赤い蝋燭を二、三本、形見に残して、娘は連れて行かれます。
五章
娘が連れ去られた後のある穏やかな晩、真夜中に戸を叩く音がします。とん、とん。戸の向こうにいたのは、長い黒髪のびっしょり濡れた、色の白い女でした。女は真っ赤な蝋燭を1本買い、銭を払って帰ります。けれど、その銭は貝殻でした。その夜、近頃にない大暴風雨になり、難船した船は数え切れませんでした。それからは、赤い蝋燭がお宮に点った晩はたちまち大あらしになり、赤い蝋燭を見た者は海に溺れると言われるようになります。夫婦は「神様の罰が当った」と言って店をやめます。だれも参らなくなり、お宮は町の鬼門(町が恐れて避ける場所)になります。
母が「聞いていた」人間と、本文に書かれたこと

一章で、人魚の母は人間について3つのことを「聞いている」と言います。
- 「やさしい」……「人情があってやさしいと聞いている」「一番やさしいものだと聞いている」
- 「いじめない」……「可哀そうな者や頼りない者は決していじめたり、苦しめたりすることはないと聞いている」
- 「捨てない」……「一旦手附けたなら、決して、それを捨てないとも聞いている」
本文の後半には、これと並ぶ文があります。
- 「その娘を可哀そうに思った人はなかったのであります」(三章)
- 「娘を香具師に売ることに約束をきめてしまったのであります」(四章)
- 「鬼のような心持になってしまった年より夫婦」(四章)
この記事では、どちらが正しい人間像かは言いません。母が聞いていたことと、本文に書かれたことを並べるだけです。動画では、この3つを白い蝋燭の形にして画面の端に立てています。
二つの蝋燭

同じお宮、同じ海で、蝋燭の役目が入れ替わります。
- 絵の蝋燭の燃えさし(三章):身に付けて海に出れば「どんな大暴風雨の日でも」災難がなかった、と噂されました。
- 赤い蝋燭(五章):お宮に点った晩はたちまち大あらしになり、「見ただけで、きっと災難に罹って、海に溺れて死んだ」と書かれます。
守りの蝋燭と、恐れられる蝋燭。間にあるのは、娘が連れ去られる夜に、手の蝋燭を全部赤く塗った場面(四章の終わり)です。
言葉を数えると
青空文庫の本文(作品ID 54372)からルビを除いて、言葉の数を数えました。本文の長さは6,508字です。
- 「罰が当る」は4回。①お婆さんが赤ん坊を拾う時(心の中)、②お爺さんが大事に育てようと言う時、③夫婦が売る話を断る時、そして④「神様の罰が当ったのだ」と言って店をやめる時。4回目だけが「当った」と、過去の形になります。
- 「お授け」は4回。すべて老夫婦の言葉です。拾って育てる時に3回、売るのを断る時に1回。
- 「可哀そう」は5回。母の「可哀そうな者はいじめないと聞いている」が1回、お婆さんが赤ん坊を拾う時に3回、そして最後は「その娘を可哀そうに思った人はなかった」です。
- 「貝」は2回。娘が蝋燭に描いた「魚や、貝や」と、女の払った銭が「貝殻」だった所です。
- 「うねうね」は2回。一章で母が見た海と、五章の終わりの海。最初と最後の海が、同じ言葉で書かれています。
- 「ちらちら」は3回。母が見た神社の灯、お宮の蝋燭の火影、そして結末で波から山へ昇っていく光です。
結末
――この節は結末まで書きます。先に原文を読みたい人は、ここで止めてください。
五章の終わりで、星の見えない雨の晩に、波の上から蝋燭の光がひとつ漂って、山のお宮へ昇っていくのを見た者がある、と書かれます。最後の一文は「幾年も経たずして、その下の町は亡びて、失なってしまいました」です。町が亡びた理由は、本文には書かれていません。
本文が書いていないことは、ほかにもあります。
- 母が赤ん坊を石段の下に置いた、とは書かれていません。一章は人魚が陸へ近づく所で終わり、二章で赤ん坊が泣いている、とつながります。
- 色の白い女がだれかは、書かれていません。女が取った真っ赤な蝋燭が、娘の残した物だとも書かれていません。
- 娘がどうなったかは、書かれていません。夫婦が「とてもあの船は助かるまい」と言い、難船した船が数え切れなかった、とあるだけです。
- 女が来た晩が、娘が連れて行かれた夜と同じ夜かも、書かれていません。
- 赤い蝋燭をお宮にあげたのがだれかも、書かれていません。
読み解きの問い
- 町は、なぜ亡びたのでしょうか。
- 色の白い女は、だれだったのでしょうか。
- 娘は、最後にどうなったのでしょうか。
- 母の「聞いている」は、だれが母に話したことなのでしょうか(本文にはありません。問いとしてだけ残ります)。
よくある問い
いつ、どこに発表された話ですか
1921年(大正10年)2月16日から20日に、「東京朝日新聞」に発表されました(青空文庫の図書カード)。作者の小川未明は1882年4月7日生まれなので、発表の時は38歳でした。
子ども向けの話ですか
青空文庫には、この話に2つの版があります。ひとつは童話全集を底本にして、すべての字に読みがなを振った版(作品ID 51005)。もうひとつは、怪談の選集を底本にした版(作品ID 54372)です。どちらも同じ話です。子どもの本にも、怖い話の本にも入ってきた話だと言えます。
色の白い女は、人魚の母ですか
本文は書いていません。手がかりとして本文にあるのは、濡れた長い黒髪、真っ赤な蝋燭を選んだこと、銭が貝殻だったこと、そしてその夜の大あらしだけです。
娘は最後にどうなりましたか
本文は書いていません。香具師の船が沈んだかどうかも、書かれていません。夫婦が「とてもあの船は助かるまい」と言ったことと、その夜に難船した船が数え切れなかったことだけが書かれています。
どのくらいの長さの話ですか
ルビを除いて約6,500字です(数えた結果)。5つの章が、それぞれ1,300字前後です。
原文への道案内
原文は青空文庫で無料で読めます。青空文庫は、著作権の切れた作品を無料で読める電子図書館です。
- 『赤い蝋燭と人魚』(作品ID 54372、新字新仮名):aozora.gr.jp/cards/001475/files/54372_46225.html
- 『赤いろうそくと人魚』(作品ID 51005、すべての字に読みがな):aozora.gr.jp/cards/001475/card51005.html
短い話です。母の「聞いている」の3つと、「罰が当る」の4回目に気をつけて読むと、結末の一文の重さが変わって見えます。
出典
動画とこのページで使った事実・数字の出どころです。
参考にした文献
- 小川未明『赤い蝋燭と人魚』青空文庫(作品ID 54372)
- 青空文庫 図書カード(初出:東京朝日新聞 1921年2月16日〜20日)
リンク
声・音・絵
- 声:Irodori-TTS(合成音声)
- 音楽(OpenTracks):「神秘的な和の夜」(ゆうり)/「茶屋にて」(MATSU)/「縁側」(siroimu)/「百花繚乱」/「藁の記憶」
- 効果音:Freesound の CC0 録音(波・雨・戸を叩く音)と自作の雷の音
